第148章 豊川市:トヨカワノカミの商売繁盛、ややズレ気味
豊川市の朝は、狐の気配で始まる。
といっても、実際に狐が出るわけではない。豊川稲荷のお膝元、神秘と商売の香りが入り交じるこの土地では、早朝から「なんとなくありがたい気」が漂うのだ。
そんな空気を演出している張本人が、今日も静かに街を歩いていた。
──トヨカワノカミ。
豊川稲荷の守護者にして、商売繁盛と神秘の調和を操る神。普段は人間の姿に化けているが、気配だけは狐っぽい。
この日、彼の元に届いた願いは──
【願い】
「店の売上がさっぱりです。何かいい方法ありませんか……?(和菓子屋・店主)」
「ふむ。“何かいい方法”──とは、実にざっくりしているな……」
トヨカワノカミは少しだけ首をかしげ、そしてすぐに対策を考えた。
「では、“ちょっと神秘的で、わけわからんけど売れる感じ”で攻めよう」
──不安しかないが、神は本気だった。
午前10時。商店街の一角にある小さな和菓子屋。
暖簾をくぐると、トヨカワノカミが勝手にカウンター裏にいた。
「今日から、こちらに“売れる和菓子の神秘陳列”を導入します」
「え、あの、どなたですか」
「神です」
「えぇ……?」
神様はまず、商品に「謎の副題」をつけ始めた。
よもぎ大福→『記憶にしがみつく春(限定)』
あんみつ→『予知できそうな寒天』
どら焼き→『運命が挟まる円盤』
「ネーミングが詩的すぎて、意味がわかりません!」
「“意味不明だけど気になる”──それが、現代の商売繁盛のヒントです」
神、実にそれっぽいが、若干ズレている。
結果、通りがかった大学生カップルが、
「なにこれ、意味わかんないけど買いたい!」
「“円盤”買お!」
──売上、3倍に跳ね上がった。
「まさかのヒット……!」
店主、戸惑いつつ感謝。神様、どや顔。
正午。
神は次なる願いに向かう。
【願い】
「客は来てるのに“買わないで帰る”率が高くて、心が折れそうです……(古着屋)」
「ふむ、では“買う理由を無理やり作る”装置を導入しよう」
神、唐突に“おみくじ付きタグ”を全服に装着。
それぞれに書かれたメッセージは以下の通り。
吉:この服を買うと告白されます(当社比)
小吉:買っても買わなくても後悔します
末吉:その場の勢いに任せましょう
「強引すぎるやろ!」
「“おみくじ”という神秘の説得力は絶大なのだ」
結果、冷やかし客の購入率が2割上がった。
が、あとで「彼氏に告白されるって書いてたけど、実家から電話が来ただけだった!」というクレームが神通庁に届いた。
「“誰”とは書いていない」と神は静かに微笑んだ。
午後3時。
豊川稲荷前の甘味処からも願いが届いた。
【願い】
「お稲荷さんの形した最中、売りたいんですけど“可愛すぎて食べづらい”と言われます」
神は即答した。
「では“怖くする”方向で」
「えっ」
神、最中の顔に“ほんのり怒った表情”を施す。
ついでにパッケージに「これは食べていいやつです」と書く。
──それが逆にバズった。
「怒ってるのに“許されてる感”がある」
「罪悪感を超えた先に味がある」
──なにそれ。
夕方。
商店街の路地裏で、神は一人ごとを呟いていた。
「商売繁盛とは、理屈ではない。“雰囲気”だ」
そこへ通りがかりの高校生。
「昨日、友達が“どら焼きの神秘”食ったら、告白成功してたで」
「マジで!?“運命が挟まる円盤”!?」
「買いに行こ!」
神、ニヤリ。
「風が、いい方向に吹いているな」
夜。神殿にて。
トヨカワノカミは帳簿を見ながら、静かに日本茶を啜った。
《本日の商売繁盛成果:
・和菓子屋:売上3倍
・古着屋:購入率上昇
・甘味処:謎人気拡大
・クレーム:1件(実家)》
「……まあ、上出来か」
外ではまた一軒、新しく「謎の副題付き商品」が並び始めていた。
“いなりチーズせんべい 〜明日を予言する薄さ〜”
神様、満足気にうなずいた。
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