『ラクダとわたしのスパルタ合宿』
わたしがフタコブラクダと暮らし始めたのは、五日前のことだった。
事の発端は、市役所の一通の手紙である。「生物多様性保護条例により、今月の『交代飼育動物』はあなたの番です」と書かれていた。なんだそれ。パンダとかなら歓迎するけど、まさかの“フタコブラクダ”とは。
翌朝、役所の職員がうやうやしく連れてきた。身長は大人の男性より高く、目が合った瞬間に「ふぅ〜ん」と鼻で笑われた。なんだその態度。
名前は「キャメラ」。市がすでに命名していたらしい。命名者が誰なのかは知らないが、たぶんウケ狙いである。
「お水は二十リットルを朝と夕に」「乾草は一束」「気温三十度未満に」と注意点が羅列されたマニュアルを渡されたが、何より驚いたのは——
「日課:毎朝五時、散歩三キロ。同行必須」
……え、あたしも?!
翌朝、眠気と戦いながらジャージに着替え、キャメラと出発。彼は住宅街を我が物顔で闊歩し、ゴミ出し中の奥さんに「おはよー!」と鼻息をかけた。奥さんは思わず新聞を振り回して威嚇していた。
「こらキャメラ!それは挨拶じゃないの!」
しかし当の本人(?)は気にする様子もなく、次は公園の砂場に頭を突っ込む。何かの発掘でもしているのか。子供たちに「ラクダのおじさん砂食べてる〜!」と騒がれた。おじさんではない。たぶん。
その後の数日は、まさにサバイバルだった。
朝はキャメラと三キロの散歩。帰宅後は彼の抜け毛を掃除し、乾草の補充。日中は部屋の湿度を調整し、夕方は近所の子供たちの「ラクダ乗せて〜!」を全力で断る。
夜になるとキャメラはソファで勝手に寝始め、わたしは床に寝袋。
わたしの生活、どこ行った。
そして五日目、事件が起こった。
いつものように散歩していたら、キャメラが突然ぴたっと止まり、公園の前で首をかしげた。そこには「町内ペット自慢大会開催中!」の張り紙。
「……出る気か?」
キャメラは無言で張り紙を見つめていたが、その翌朝、なんと自ら首に派手なスカーフを巻いて現れた。え、どこで覚えたその技術。
「やる気か、マジで」
わたしはスカーフのセンスに唖然としながらも、もう抗う気力もなく、一緒に会場へ向かった。
会場では、チワワがフラダンスをし、セキセイインコが「恋するフォーチュンクッキー」を歌い、飼い主たちが「これがうちの子ですぅ〜」と誇らしげに発表していた。
「次は……エントリーナンバー15番、フタコブラクダのキャメラくん!」
会場が静まり返る。
ステージに登場したキャメラは、堂々とした足取りで中央へ。そして——
シャキーン、と背中のコブに挿していたバラの造花を投げた。
えっ……?
そしておもむろに、ステップを踏み始める。なにこれ……“砂漠の社交ダンス”?
観客から「ブラボー!」の声。チワワの飼い主は口をあんぐり開けていた。キャメラは一回転してバラを咥え、ポーズをキメる。
大喝采。
結果は、まさかの優勝。
トロフィーと一緒にキャメラは「ラクダ部門初優勝」の称号を手にした。そして市からは「次回以降、ラクダダンス教室の講師をお願いします」とオファー。
わたしはといえば、その後もキャメラのマネージャーとして、地元FMに出演し、「ダンスと砂の話」みたいな謎番組のパーソナリティを務めることになった。
人生、何があるかわからない。ラクダと出会って、三キロ走って、バラを投げて、まさかFMに出るとは。
だが今ではこう思う。
——キャメラ、お前、案外悪くないな。
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