見出し画像

『赤い疑問符をつける男』

 ある町に「赤い疑問符の男」と呼ばれる人物がいた。

 年齢不詳、服装不定、職業未定。
 彼の名は、そのまんま「はてなさん」。

 誰が名付けたのか不明だが、街中のいたるところに出没し、
 物陰からじっと人々を見ては、タイミングよく「?」と問いかけるのだ。

 ある日、女子高生のチヒロはコンビニでおでんを買っていた。

「大根とちくわと……あ、あと白滝くださーい」

「……?」

「え、えっ?」

 振り向くと、知らない男が眉をひそめ、首をかしげていた。
 右手には、なぜか赤いカードに「?」と手書きされた札。

「な、なに?」

「おでん、白滝だけ“単体感”強くないですか?」

「うるさいな! 好みだよ!」

 逃げるようにチヒロは店を後にするが、その後も「?」はついて回る。

「牛乳にカレーパン……?」

「え、朝からラザニア……?」

「財布、レシートまみれ……?」

 彼女は友人に愚痴った。

「最近、私の買い物に“疑問符の男”がついてくるの。もう謎ストーカーじゃん!」

「えー、でもそれTwitterで見たことあるかも。“町のはてな仙人”とか呼ばれてない?」

「仙人……?」

「なんか、的確に人の“なんとなくやってること”を突いてくるってウワサ」

 そう、“はてなさん”は、他人の行動の“見過ごしてきた変”に、問いを投げる存在なのだ。

 そのころ、サラリーマンの野田修一(のだ・しゅういち)は、満員電車の中で眠りかけていた。

 スーツにシワ、ネクタイにシミ、目の下にクマ。

 そして目の前に――“赤い疑問符”。

「ん、誰!?」

「そのネクタイ、去年の入社式から変えてませんよね?」

「うっ」

「仕事帰りに、なぜ駅の蕎麦屋ではなくパン屋に寄るんですか?」

「え、それは……うちの犬がパン好きで……ってなんで答えてる俺!?」

 電車の隅で、はてなさんは静かにうなずいた。

「日常には、見逃している問いが多すぎます。ひとつずつ、答えましょう。まずは、その上着のポケット、いつからティッシュ3枚入ってますか?」

「いやだーーー! こいつ、問いの魔人だ!!」

 逃げるように車両を変えたが、なぜか次の駅でまた乗ってくる。赤い疑問符とともに。

 一方、八百屋の店主・浜野さんは、逆に“疑問符の男”を逆質問していた。

「で、あんたは何者なのさ?」

「……“問う者”です」

「だろうね。でも誰かに問い返されたらどうするんだい?」

 浜野さんがレジ横のカゴを指差す。

「なんでこのキウイ、5個入りで1個だけ小さいの?」

 その瞬間、はてなさんが凍りついた。

「……わ、私に……疑問符を……?」

「そう。“赤い疑問符返し”だよ」

「……くっ……!」

 その日以来、はてなさんは一時姿を消す。
 「答えられない疑問符に直面すると消える」という都市伝説が誕生した。

 だが数週間後、ふたたび彼は現れた。

 今度は胸に「!」のマークをつけていた。

「……あれ? 記号変わった?」

 町の人がざわつく。

 はてなさんはにっこり笑って言った。

「“疑問”だけでは人は変わりません。“気づき”がなければ」

 そして、ひとこと。

「今日のあなたの行動に“!”はありましたか?」

 ――あったような、なかったような。

 赤い疑問符がくれるのは、他人からの“内なるツッコミ”。
 自分が“気づかないフリ”をしていることを、そっと浮き上がらせる。

 後日、チヒロはまたコンビニで白滝を取ろうとして、ふと手を止めた。

「……たまには卵、いっとくか」

 その背後で、誰かが小さく拍手していた。


いいなと思ったら応援しよう!

Goldness 楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。