『赤い疑問符をつける男』
ある町に「赤い疑問符の男」と呼ばれる人物がいた。
年齢不詳、服装不定、職業未定。
彼の名は、そのまんま「はてなさん」。
誰が名付けたのか不明だが、街中のいたるところに出没し、
物陰からじっと人々を見ては、タイミングよく「?」と問いかけるのだ。
ある日、女子高生のチヒロはコンビニでおでんを買っていた。
「大根とちくわと……あ、あと白滝くださーい」
「……?」
「え、えっ?」
振り向くと、知らない男が眉をひそめ、首をかしげていた。
右手には、なぜか赤いカードに「?」と手書きされた札。
「な、なに?」
「おでん、白滝だけ“単体感”強くないですか?」
「うるさいな! 好みだよ!」
逃げるようにチヒロは店を後にするが、その後も「?」はついて回る。
「牛乳にカレーパン……?」
「え、朝からラザニア……?」
「財布、レシートまみれ……?」
彼女は友人に愚痴った。
「最近、私の買い物に“疑問符の男”がついてくるの。もう謎ストーカーじゃん!」
「えー、でもそれTwitterで見たことあるかも。“町のはてな仙人”とか呼ばれてない?」
「仙人……?」
「なんか、的確に人の“なんとなくやってること”を突いてくるってウワサ」
そう、“はてなさん”は、他人の行動の“見過ごしてきた変”に、問いを投げる存在なのだ。
◆
そのころ、サラリーマンの野田修一(のだ・しゅういち)は、満員電車の中で眠りかけていた。
スーツにシワ、ネクタイにシミ、目の下にクマ。
そして目の前に――“赤い疑問符”。
「ん、誰!?」
「そのネクタイ、去年の入社式から変えてませんよね?」
「うっ」
「仕事帰りに、なぜ駅の蕎麦屋ではなくパン屋に寄るんですか?」
「え、それは……うちの犬がパン好きで……ってなんで答えてる俺!?」
電車の隅で、はてなさんは静かにうなずいた。
「日常には、見逃している問いが多すぎます。ひとつずつ、答えましょう。まずは、その上着のポケット、いつからティッシュ3枚入ってますか?」
「いやだーーー! こいつ、問いの魔人だ!!」
逃げるように車両を変えたが、なぜか次の駅でまた乗ってくる。赤い疑問符とともに。
◆
一方、八百屋の店主・浜野さんは、逆に“疑問符の男”を逆質問していた。
「で、あんたは何者なのさ?」
「……“問う者”です」
「だろうね。でも誰かに問い返されたらどうするんだい?」
浜野さんがレジ横のカゴを指差す。
「なんでこのキウイ、5個入りで1個だけ小さいの?」
その瞬間、はてなさんが凍りついた。
「……わ、私に……疑問符を……?」
「そう。“赤い疑問符返し”だよ」
「……くっ……!」
その日以来、はてなさんは一時姿を消す。
「答えられない疑問符に直面すると消える」という都市伝説が誕生した。
◆
だが数週間後、ふたたび彼は現れた。
今度は胸に「!」のマークをつけていた。
「……あれ? 記号変わった?」
町の人がざわつく。
はてなさんはにっこり笑って言った。
「“疑問”だけでは人は変わりません。“気づき”がなければ」
そして、ひとこと。
「今日のあなたの行動に“!”はありましたか?」
――あったような、なかったような。
赤い疑問符がくれるのは、他人からの“内なるツッコミ”。
自分が“気づかないフリ”をしていることを、そっと浮き上がらせる。
◆
後日、チヒロはまたコンビニで白滝を取ろうとして、ふと手を止めた。
「……たまには卵、いっとくか」
その背後で、誰かが小さく拍手していた。
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