ひたい問題相談室
「で、どこに手を当てたんですか?」
「ひたいです」
「おでこですね」
「はい、ひたいです」
「はい、ひたいですね」
場所は、都内某所――地味なビルの4階、看板も出ていない小さな事務所。その名も「全国ひたい支援協会」。
代表を務めるのは、元・気象予報士の藤谷隆、42歳。自他ともに認める“ひたいフェチ”である。
「では、ひたいに手を当てたときの状況を詳しく教えてください」
相談に訪れたのは、小学校教師の竹内、29歳。彼はやたらと真面目な顔で、額を押さえていた。
「朝のホームルームで、女子生徒の“朝顔が開きません”発言にパニクりまして……気づいたら、手がひたいに」
「……出ましたね、“朝顔型混乱”」
「これ、よくあるんですか?」
「小学校低学年での“想定外の植物行動”は、頻出のひたい誘発要因です。つまり……あなたの額は正直者です」
「そんなの初めて言われました……!」
* * *
そもそも「ひたいに手を当てる」行為には、明確な分類がある。
藤谷所長の著書『額面通りに受けとって!』によれば、主なカテゴリは次のとおり:
反省型……「ああ、やっちまった」系。会議後のサラリーマンに多い。
混乱型……「何が起きてるの?」系。子育てとITパスワード問題に顕著。
誇張型……「私、世界で一番大変」系。演劇部出身が多い。
物理型……本当に熱い・寒い・虫がいるなど、肉体的ダメージ系。
竹内の場合、「混乱型」と「反省型」が融合した「複合ミックス型」であることが判明。
「でも……これって、治せるんですか?」
「安心してください。当協会では、“ひたいに当てない手”の練習をしています」
「そんなのあるんですか!」
* * *
そして翌日。
竹内くんは“ひたい回避トレーニング”の体験レッスンに参加することとなった。
講師は、元・プロひたいモデルの米山さん。異常にツヤのあるおでこが特徴。あまりに光るため、協会では“リフレクター”と呼ばれている。
「はい、みなさん、まず“ひたいに手をやりたくなった瞬間”をイメージしてください」
受講者たちが真剣な顔でうなずく。
「そこです! その手を――横にスライド!」
ズッ
「そう、“こめかみ”に当てる! これが“誤魔化し式ハンド配置法”!」
「おお……なんか、知的に見える……!」
「さらに応用編――“口元に手を当てる”!」
ピッ
「そう! これで“思索中”アピールに早変わり!」
受講者たちが次々と、ひたい未満のゾーンに手を当てる。まるで“新時代のポーズ講座”。
竹内くんも「……っっあぶない! おでこ行くところだった!」と危うく手を押し戻していた。
* * *
レッスン終了後、藤谷所長から渡されたのは「ひたい感度判定書」。
――ひたい感度:★★★★☆
「これは……高いんですか?」
「非常に高いですね。あなたの人生、たぶんあと24回くらいひたい触っちゃいます」
「多いな!」
「でも大丈夫。“意識すれば額は裏切らない”。私の座右の銘です」
「なんか刺さるようで刺さらない!」
竹内くんは、感度表を財布にしまって帰っていった。
* * *
数週間後。
協会に一本の電話がかかってきた。
『あの、竹内です……僕、ついに……“ひたいに手を当てずに終業式を乗り切りました!”』
所長とリフレクター米山が、拍手しながら号泣していた。
「彼も、もう“こめかみ中級者”か……立派になって……」
「次は“眉間誘導コース”ですね……!」
* * *
一方、協会では新たな相談者が訪れていた。
「どうしました?」
「職場で“うっかりひたい”しすぎて、“額定期”ってあだ名つきました……」
「ご安心を。ひたいは癖、癖は文化、文化は力です。」
「文化なんですか!?」
「今日からあなたも、額の伝道師です」
そう、ここは「ひたい問題相談室」。
あなただけの“手の置き場所”、一緒に探しましょう。
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