第14話 押上駅の駅神様
押上駅。地下深くからエスカレーターを延々と上がれば、観光客が必ず「長っ!」と声をあげるおなじみの場所だ。
この駅を守る駅神様は、やけに背が高い。いや、実際に高いのではなく、頭の上に“スカイツリー型の帽子”をのっけているからそう見えるだけなのだが。本人はいたって真面目にこう言う。
「観光地を背負って立つのも、神様の務めですから」
だがその言葉とは裏腹に、神様はよく観光客に振り回されていた。
朝いちばん、ホームに降りてきた修学旅行生たちが一斉に声を上げる。
「スカイツリーどっちー!?」
神様は「ええと、出口B3……いやB3は商業施設経由で……」と頭を抱え、帽子の先をぐらぐら揺らした。
「ちょ、ちょっと待って! 出口はいっぱいあるけど、どれもツリーに行けるから!」
そう叫ぶと同時に、偶然現れた案内板のランプが点滅し、生徒たちは歓声をあげて駆け出した。神様は胸をなでおろす。
昼前には外国人観光客が改札前で立ち止まる。
「スシ? スカイツリー? アサクサ?」
神様は英語が苦手だ。焦った末に、帽子のツリー部分をぶんぶん振った。すると、偶然通りかかった地元のおじさんが「浅草なら一駅だよ」と親切に案内してくれる。観光客は感激してスマホで記念撮影。何もしていないのに神様は「グッジョブ!」と親指を立ててしまう。
午後になると、スカイツリー帰りの家族連れが改札を出ようとしていた。子どもが「お腹すいたー!」と泣き出す。神様は慌ててポケットを探り、飴玉をひとつ落とす。もちろん人間には見えないが、なぜかその瞬間、駅ナカのソフトクリーム屋の呼び込みが目に入った。子どもの顔はぱっと明るくなり、「アイス! アイス!」と駆け出す。親は苦笑いしながら財布を開く。
「よし、家族円満。僕の勝ち」
だが夕方。今度は電車に乗ろうとした観光客が「スカイツリーってどっちから見えるの?」と聞いてきた。神様はしどろもどろになる。
「ええと……東武線に乗れば窓からよく見えます! ……多分!」
適当な返事をしたその瞬間、窓側の座席に案内された観光客の目に、ちょうど沈みかけの夕日に照らされたスカイツリーが映った。観光客は歓声をあげ、写真を連写する。神様は心臓をなでおろし、「ふぅ、結果オーライ」と呟いた。
夜になると、押上駅は再び静けさを取り戻す。だが神様の帽子は、まだきらきらと光っていた。
「……正直、重いんだよなぁ、この帽子」
愚痴をこぼしつつも、神様はきっとこの駅を気に入っている。だって、人が来るたびに誰かが笑って、誰かが「すごい!」と声をあげる。それは何よりのご褒美なのだ。
「さて、明日もまた“出口どっちー!?”祭りが始まるぞ」
そう言って神様は背筋を伸ばす。スカイツリー帽子はますます高くそびえ、夜空に溶け込んでいった。
いいなと思ったら応援しよう!
楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。