第30話「静かなる眠り、そして永遠へ」
ギリシャの草原。
アルキメデスは、かつてと同じ場所——
オリーブの木陰に、静かに腰を下ろしていた。
—
手には、あの銀色の硬貨。
「百……“100”か。単なる数にしては、妙に“完全”な響きがあるのう」
—
指でなぞるように桜の彫刻をなぞる。
—
「春に咲く花でありながら、夢の中では“秋”に見たな……」
—
そう言って、彼はふっと目を細める。
—
太陽はやわらかく、
風は穏やかに草をなで、
世界は、何も変わっていないようでいて、
確かに、彼の中には“何か”が残っていた。
彼はそっと背を草に預け、空を見上げた。
—
星はまだ現れず、
ただ青く澄んだ空が広がっている。
—
「未来の世界は、驚きと愉快に満ちておった。
わしの定理が記され、
子らがそれを学び、
笑い、悩み、風呂に入り……
カラオケで歌う——」
—
くすりと笑った。
—
「すべては、知のなせる業。
ならば、わしの“夢”はもう……叶ったのだろう」
—
目を閉じる。
—
「この世界は……美しかった。
人々もまた、知を求めていた。
その願いがある限り、わしはもう——」
—
風が、彼の頬をやさしくなでる。
—
「眠っても、良いであろう」
—
草の上で、アルキメデスはそっと微笑んだ。
—
その表情は、まるで……
—
——すべてを見届けた者の安らぎに満ちていた。
—
(最終話・完)
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