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第11話「アルキメデス、カラオケに挑む」

「よし、じゃあ今日はみんなで打ち上げだ! 行くぞ、カラオケ!」
 土曜の放課後。
 理科部のメンバー数人が誘い合わせて向かったのは、駅前のカラオケボックスだった。
「アルキメデスさんも、来ます?」
 と聞かれた時、彼は一度“カラオケ”という単語を聞き返し、慎重にうなずいた。
「それは……音を用いた現代の劇場か?」
 —
 エレベーターの中で、松井が説明する。
「カラオケってのはね、音楽が流れて、それに合わせてマイクで歌うんだよ。好きな歌を選べるの。まあ娯楽だね」
「なるほど。つまり、伴奏は自動で……しかも、声を増幅する機械があると?」
「そうそう、マイクって言うんだ」
「……興味深い。これは“共鳴”と“反射”の実験場ではないか」
 —
 受付を済ませ、ドリンクバーを経由し、通されたのはL字型のソファとモニターのある小さな個室。
 アルキメデスは、まるで神殿の研究室を前にしたような真顔で、機械類を一つ一つ観察しはじめた。
「これが……音響拡張装置か。ここから音が出て、そしてまたこの“リモート装置”で操作を……」
「それ、リモコンね」
「そしてこれが……曲を選ぶ石板!」
「タッチパネルな!」
 —
 先に曲を入れたのは吉澤だった。
「じゃあ、私からいくねー!」
 明るくポップなJ-POPが流れ始め、みんな手拍子を始める。
 アルキメデスはそれを見て、目を見開いた。
「この空間……人々が声と機械とを調和させ、一体になっておる……!」
 —
 続いて松井も歌った。
「次はー、ノリのいいやつでいくかー!」
 アップテンポなロック曲が始まり、ジャンプしながらノリノリで歌い上げる。
「……こ、これは……音による戦だな!? いや、祭か!?」
 —
 順番が回ってきたとき、全員がアルキメデスに注目した。
「さあ、アルキメデスさん。あなたの番です!」

「……よかろう。わしも一曲、披露しよう」
 そう言って、アルキメデスはタッチパネルを前に黙考した。
「だが……この“歌の石板”に、わしの知る曲はひとつもないな……」
「そりゃそうでしょ! 紀元前のヒットソングなんて入ってないから!」
 吉澤が笑いながら言うと、松井が補足した。
「じゃあ、自作でもいいよ。マイクあるし。フリーで歌ってみたら?」
「……なるほど。“自作詩”を朗誦する場として使えば良いのだな?」
「そう! それがまさにカラオケの精神!」
「うむ、では……わしの記す“オデュッセイア風詩歌”を一つ——」
「(精神ちゃうやんそれ……!)」
 —
 カラオケの機械から無音の演奏(いわゆるBGMなし)が流れ始めた。
 アルキメデスはマイクを両手で握りしめ、天を仰ぎ、そして——
「おお、旅路を越えし風よ!
 我が魂に宿りし蒸気の力を語れ!
 円の彼方に燃ゆるは数式の彼岸、
 無限へと漕ぎ出す舟は、比率πにて導かれり——!」
「詩じゃん!! 完全に詩じゃん!!」
 —
 誰も突っ込めず、ただ、聞き入るしかなかった。
 音楽の代わりに、リズムはアルキメデスの足踏み。
 メロディの代わりに、朗唱の抑揚。
「静けさの中に生まれる“知”……これがわしの“歌”じゃ……!」
 —
 曲(?)が終わると、数秒の沈黙。
 ……からの、拍手。
「すごい……」「よくわかんないけど……荘厳だった……」
 —
「次、誰か、ちゃんと曲入れよう!!」
 と叫んだのは、松井だった。
 —
 その後、再び普通のJ-POPやアニソンが流れ始めた。
 アルキメデスは隅でドリンクバーの“メロンソーダ”を片手に、小さくメモを取っていた。
《現代の“歌”文化》
 ・旋律よりも“想い”を乗せる器として、カラオケは存在する
 ・マイクは、声を遠くへ運ぶ魔術的装置
 ・“フリー演奏”は、即興詩にも対応可能
 ・ただし、やりすぎると周囲は戸惑う
「……やはり、“調和”とは重要なのだな……」
(第11話 完)


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