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妖精専門家・佐々木と、くたびれた妖精(♀)

 佐々木は、公務員である。正確には「都市環境管理局・特殊自然災害課・非現実生命体応対室」という、長い名札の裏に隠された奇妙な部署で働いている。要するに、現代の「妖精対応係」だ。

「最近、マンションの換気口から“羽根付きの小柄な女性”が出てきて、花粉をまき散らしてるらしいです」

 部下の浜田が書類を手に言った。

「例の“部屋干しおじゃま妖精”か。名前あったっけ?」

「えーと、〈ファブラ・フローラ〉。本人が書いた履歴書にありました。現住地:換気口、特技:くしゃみの誘発」

「地味な攻撃力だな」

 とにかく、行くしかない。

 現場のマンションは、新築二年目のタワー型。エントランスには観葉植物が整然と並び、ちょっとしたセレブ感が漂う。だが、換気口を覗いた佐々木は絶句した。

「……出てこないな」

「ティッシュ置きます?」

 浜田がポケットから鼻セレブを取り出す。すると、換気口の中から反応があった。

「まさか……!」

 中から、ぼさぼさ頭の妖精がにょっきりと現れた。目の下にクマ、手にはミニサイズの加湿器を持っている。

「……あの、すみませんけど……あんまり大声出さないでくれます? いま花粉バランス調整中なので……」

 弱々しい声。確かに羽根はあるが、飛ぶ気力がない。いわゆる“くたびれ系妖精”だった。

「ファブラ・フローラさんですね。あなた、区条例違反の空中浮遊をして、住民のくしゃみを誘発してますね?」

「……だって、こっちも飛びたいし、舞いたいし、咲きたいし……でもPM2.5が……」

 そう言ってまた引っ込んだ。

 しばらく沈黙。

「どうします?」

「こういうときは、甘いもんだ」

 コンビニでプリンを買い、換気口前に皿をセットすると、ファブラは再登場した。

 プリンをスプーンでちびちびすくいながら、妖精は語り出す。

「むかしはね、花の香りで人間を笑わせるのが仕事だったんですよ。でも最近は、“芳香アレルギー”とか“鼻炎持ち”とかばかりで……。私が舞うたびに『死ね』って言われるの。妖精でも泣きますよ?」

「そりゃ、きついな……」

 浜田がポケットティッシュをそっと差し出す。

「この部屋の住民は許可を得てあなたを保護しています。……が、住民の苦情を無視して好き放題はできません」

「……じゃあどうすればいいの」

「環境適応型妖精として、新しい分野に転職していただきます」

 佐々木は一枚のチラシを出す。

【フェアリースパ:花粉リフレ&セラピー部門オープニングスタッフ募集中!】

「いま妖精スパ、流行ってるんです。あなたの花粉、使い道ありますよ。ちゃんと適量なら“美肌成分”扱い」

「え、それ……スパ? 妖精がやってもいいんですか?」

「問題ない。むしろ大歓迎される」

「でも……私、最近ちょっと飛ぶのもしんどくて……」

「送迎あり。福利厚生に“ミニ布団”と“湿度管理完備の控室”つき」

「え、めっちゃ手厚い……」

 妖精、即決。

「じゃあ、履歴書更新してきます!」

 羽根をバサバサと動かし、飛び立った――3メートル先で息切れして落ちた。

「……タクシー呼ぶか?」

「空中版、ですね」

 一週間後。妖精スパ「スパフェアリー」はSNSで“鼻が通る小顔パック”と“美しく飛ぶ指導付き花粉浴”が話題になり、予約が三ヶ月待ちとなった。

 オープニングスタッフの一員・ファブラは、ふかふかの蒸気ベッドでくつろぎながら花粉を一粒ずつ調合していた。

「……ちゃんと役に立てるって、いいもんですね」

 その横では、同僚の妖精が「くしゃみ誘発コース」を花粉1.2倍で設計中だった。

「でもそれ、またくしゃみ出ますよ?」

「いや、リピーターに人気で」

「人間、やっぱり変ですね……」

 ファブラはちょっと笑って、またプリンをひとくち食べた。




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