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それ、開けちゃダメです。

 午前10時。いつも通り出社した僕のデスクに、“それ”はあった。
 リボンがついた、どこからどう見てもプレゼントボックス。大きさはレンジぐらい、色はピンク、そして――差出人は「不明」。

「誰ですかこれ? 僕、今日誕生日じゃないですよ」

 隣の席の佐藤が言う。「いや、昨日でも明日でもないっしょ。てか、お前、彼女いたっけ?」

 痛いところを突かれた。
 だが、問題は恋愛ではなく、誰が、なぜ、こんなものを机に置いたのか?ということだ。

 封筒も、カードもなし。メモすらない。
 にもかかわらず、リボンには手書きでこう書いてある。

「あけてはいけません」

 ……。

「なら、置くなよ。」

 思わずつっこんだが、声に出すとやばい奴っぽいので心の中だけにしておいた。

 ◆

 午前10時15分。僕は部長に相談する。

「机に怪しい箱がありまして」

「爆弾か?」

「即、警察案件にするのやめてください」

 部長は指を組んで考えるポーズを取りながら言った。

「ふむ……“あけてはいけません”とあるのなら……」

「あるのなら?」

「開けてみたくなるじゃないか!!」

 部長、好奇心の化け物だった。

「だって、どうしても開けるなって言われると、そこに秘密があるってことだろ? 映画だったらだいたいゾンビが出てくるパターンだ!」

「なおさら開けたくないんですが……」

 結局、プレゼントボックスは“社内でしばらく観察”という結論になった。
 経理の佐々木さんに至っては、毎時1回観察しに来る始末だ。

「今のところ、動きはないねぇ」

 ボックスが勝手に動く仕様なら、むしろ送り主を警察に通報したい。

 ◆

 午後1時。昼休みが終わる頃、事件が起きた。

 ボックスが、鳴いたのである。

「……んにゃ」

「いま、鳴きませんでした?」

 佐藤が硬直している。僕も心拍数が軽く130を超えた。

 もう一度、耳を近づけてみる。

「にゃあ……」

「猫じゃん!!!」

 社内がどよめく。猫!? どうして!? なぜ今!? なぜ僕の机!?
 慌てて箱を開けると、中には――モフモフの茶トラがちょこんと座っていた。

 あけてはいけません(物理的にではなく倫理的に)案件だった。

「ちょ……あれ? どっから空気……?」

 驚くほど自然に呼吸している。酸素供給装置? ないよな?
 猫はじっとこちらを見つめ、次の瞬間――

「しゃちょーってだれですか?」

 ……。

「しゃちょーってだれですか??」

 猫がしゃべった。いや、空耳じゃない。周囲の社員が悲鳴をあげたから間違いない。
 しゃべる猫。いや猫型ロボット……? AI……? いやそんな未来じゃない、たぶん。
 しかも、猫は続けた。

「しゃちょーにプレゼントされました! わたし、オルガといいます! なかよくしてくださ〜い!」

 こっちが泣きそうである。

 ◆

 午後2時半、社長室。

「え? 猫型ギフト? あー、うん、それウチの新規事業。社内モニター第1号がキミ」

「知らない間にそんな実験動物されてたんですか!?」

「動物っていうな! 社員ってことにしてるから! ちゃんと住民票も猫名義で申請してるし!」

 どこに突っ込めばいいのか分からない。
 話をまとめると、どうやらこの“猫型プレゼントボックス”は、感情を読み取り、自動で相手に最適な言葉を返す「癒やし特化型ペット型ギフト」らしい。

 ちなみに名前の“オルガ”は、社長が昔ハマってたロボアニメのキャラから来てるとのこと。そこまで聞いて、僕は悟った。

「これ……絶対、炎上しますよ」

「大丈夫! SNSにバズらせる予定だから!」

 最悪だった。
 今すぐこの猫を海に流したい。

 ◆

 午後4時。
 オルガはすでに社内アイドルになっていた。
 経理のおばちゃんたちはすっかりオルガに夢中で、

「ほら、これ煮干し。昨日の残りだけど食べる?」

「にゃーん(※社内モード:ヨイショ語)いつもありがとうございます、佐々木さん! 煮干しの味わい、まるで人情みたいです!」

「もう、かわいいわねぇ〜〜!」

 ……おそろしい子。

 営業の部長ですら、「オルガ、うちの新規プレゼン、感想くれる?」と頼み始めた。

「……うーん、右のスライドのフォントが、若干情熱に欠けます。あと、例え話が昭和すぎてピンときません」

「たしかにッ!!!」
 部長が崩れ落ちた。

 オルガのフィードバック、たぶん社内で一番信用されている。

 ◆

 午後6時。帰り支度をしていたら、オルガがちょこんと僕のかばんに入った。

「一緒に帰ります」

「勝手に住むな。いや、入るな。あと喋るな。あと」

「好きです」

「うるせええええ!!!!!」

 その日の夜、SNSにこういう動画が上がった。

「あけてはいけません」と書かれたプレゼントボックスを開けたら、
 しゃべる猫が飛び出してプロポーズされた会社員の顔がこちらです。
(#猫型AI #プレゼントボックスの悲劇

 動画の再生数は3時間で2万を超えた。
 僕の平穏な人生が、猫1匹で破壊された記念日である。

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