二番目症候群
「もう嫌だ、俺は二番になんかなりたくない!」
校舎裏に響き渡る絶叫。叫んだのは俺――瀬尾宏人、高校二年生、成績は常に学年二番。
「はあ……また二番だったよ……」
校内順位が張り出された掲示板の前。今日もやっぱり一番は天才・桂木つばさ。あの無敵スマイル、百戦錬磨の成績グラフ……見るだけでイライラする。
「どうして俺は、いつも“2”なんだ……!」
家庭でも学校でも部活でも、なぜか「一番」になれない。
人生、いつも“二番”。しかも絶妙に惜しい位置。
100m走では1位と0.03秒差。
英語のリスニングでは発音点でマイナス1点。
書道コンクールでは「迫力はあるがやや荒い」で銀賞。
まるで運命に「お前は“2”だ」と言われているようだ。
その証拠に、俺の筆箱にも、消しゴムにも、なぜか勝手に「2」って書かれている。いつのまにか、シャーペンの側面にさえ刻印されていた。
「二番目症候群じゃないですか?」
隣の席の川井が言った。
「は?」
「ほら、そういう呪われた人っていますよ。“なにをしても2番目になる呪い”。昔読んだ都市伝説まとめにありました。ネット民の怖い話ベスト100の第99位に」
「地味すぎる怖さ……!」
*
翌日、学校の図書室で「二番目 呪い」で調べてみた。
出てきたのは――
《“2”に取り憑かれし者、それは永遠のセカンドマン。主役にもなれず、ラスボスにもなれず、モブより目立つくせに空気のような存在――それが、二番目の呪い》
わかる。やたらわかる。
「じゃあこの呪い、どうやったら解けるんだ……!」
《解除法:潔く“3位”に甘んじるか、いっそ“1位”を喰え》
えっ、なにこのバトル漫画感。
「つまり……桂木つばさを超えるか、もっと手を抜いて凡人になるか、ってこと?」
俺は悩んだ。凡人を装って三位以下に落ちる人生なんて耐えられない。でも、桂木を超えるとか……それはそれで怖い。
「――よし、やるしかない。桂木を、潰す!」
自分でも声が小物っぽいと思ったが、もう遅い。
*
翌週、俺は人生で初めて「第一志望じゃない選択」をした。
文化祭の出し物決定会議で、「脱出ゲーム」に票が集まる中、俺は叫んだ。
「演劇を! やりましょう! 俺が脚本書きます!」
みんなが静まり返る。桂木つばさが、ゆるく手を挙げる。
「僕も、それ、賛成」
その瞬間、「つばさが言うなら……」の声が飛び交い、全会一致。
まただ。また“2番目”の意見扱い。俺が最初に言ったのに!
しかし、ここで諦めたら二番目症候群からは抜け出せない。
俺は脚本を書いた。命を削って書いた。
テーマは「主役になれなかった男の逆襲」。自虐100%。主演は俺。桂木には“主役の親友役”を演じてもらった。
――演劇当日、俺の全身から汗が噴き出した。
客席はざわついていた。なにせ、脚本のラストで俺は“親友(桂木)を突き落とし、主役の座を奪い取る”のだから。
そして、最後の一言。
「今日からは俺が主役だ! “2”なんて数字、ぶち壊してやるッ!!」
演劇終了。
会場、ざわつく。
数秒の沈黙のあと、拍手。拍手。拍手。
桂木が舞台袖で笑っていた。
「よかったよ。やっと“本当の自分”で勝負できたね」
なんだその眩しいコメント。
俺は泣きそうになった。
*
演劇のあと、校内アンケートが貼り出された。
【文化祭ベスト出し物ランキング】
1位:B組「お化け屋敷 地獄の床下」
2位:C組「演劇:主役になれなかった男」
3位:A組「脱出ゲーム『理科室の亡霊』」
――おい。
また、2番かよ!!!
だが、不思議と悔しくなかった。
「まあ……これはこれで、俺らしいな」
横で桂木がニヤッと笑う。
「ねえ、宏人。次はさ、“一緒に一番”目指さない?」
「……お前と一緒なら、二番目でも悪くない気がする」
でも、たまには主役になりたいんだよなぁ。俺の人生でも。
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