第135章 松江市:マツエノカミの願い
──願いは、神聖に叶えます。ただし、少々“ズレ”る可能性がございます。
松江城の近く、観光客も気づかないほどの細道の奥に、ひっそりと祠が建っている。そこに住むのが、マツエノカミ。由緒正しき神だが、少々“人間の願いの意図”を取り違えるクセがある。
「願いが来とるのう。ふむ、これはまた……深いぞ」
マツエノカミは祠の奥に鎮座しながら、願文を見つめた。
今回の依頼主は、松江市在住の女子高生・彩羽。陸上部所属で、真面目に練習しているが、いつも試合ではちょっとしたミスで負けてしまうタイプ。
彼女の願いは──「計画通りにいかなくても楽しめる自分になりたい」。
「うむ、これは“神の導き”であるべきじゃな」
マツエノカミは、清めの塩をまいて、神聖な“ズレた対応”を始めた。
翌日、彩羽の朝は変だった。
起きた瞬間、部屋に謎の和太鼓の音が鳴り響き、「今日も縁起がよい!」と金文字で表示されたスマホの天気アプリ。お弁当箱には「無計画最高」と書かれたのり文字。
さらに登校中、急にカラスが近づいてきて、スッとメモ紙を落とした。
「“計画”は神の領域。“失敗”はお前の表現だ。楽しめ」
「……神様、意味わからんことを詩的に書かないで」
その日から彩羽の周囲には、ちょっとずつ“ズレた啓示”が増えていった。
・靴箱に入っていたおみくじ:「予定外、それは祝福」
・廊下に落ちていた木札:「道草は、運命のひとさじ」
・体育館のベンチに刻まれていた文字:「タイムは誤差、心は本番」
もはや呪いのようだが、妙に全部、心に刺さる。
そして試合の日。いつもなら前日から緊張で胃が痛くなる彩羽だが──
「今日はどんなトラブルがあるかな、楽しみになってきた……なんで?」
なんと試合当日、彼女は“あらかじめ靴を片方忘れてくる”という斬新なトラブルを発生させた。
「やば、靴片方ない!」
「大丈夫!? どうするの!?」
「……左足、裸足でいこうか」
結果、彩羽は“靴下+裸足”という珍しいフォームで、見事に自己ベストを更新。観客からも「何か降りてた」と言われ、本人も「なんか……楽しかった」とにやけていた。
その夜、彼女は祠に手を合わせた。
「神様、あの……靴は次回、用意しておくので、もう少しだけ“計画寄りの奇跡”でお願いできませんか」
すると祠の奥から、重々しい声が響いた。
「そなたの願いは……神聖に叶った。今やそなたは“失敗すら美化するタイプ”になったのじゃ……」
「そこまで急成長してない! まだそこまで達観してないです!」
そして祠の横に、そっと掛けられていた言葉札には、こう書かれていた。
──「計画は人、導きは神、だが失敗は……お楽しみ」
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