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第29話「すべては、夢のうち」

 秋の夜の校庭——
 アルキメデスは、ただ一人、芝の上に寝転んで星を見上げていた。
 —
「星々よ……そなたたちは、いかに時を越えて、同じ軌道を描くのか……」
 —
 まぶたが、静かに、落ちる。
 —
 ——ふっと意識が遠のいたその瞬間。
 —
 風が変わった。
 匂いが変わった。
 空の“青”が、少しだけ濃くなった気がした。
 —
 そして——
 彼は目を開けた。
 —
 見えたのは、陽光さす草原。
 ——ギリシャ。
 —
「…………戻ってきたのか?」
 —
 ゆっくりと身体を起こす。
 遠くに見えるのは、なつかしいオリーブの樹。
 山羊の鳴き声。
 そよぐ風。
 —
「ここは……わしの時代……」

 アルキメデスは、自分の手を見た。
 指の感覚。
 温度。
 風に揺れる衣。
 すべてが——かつての日常に戻っていた。
 —
「……では、あれは全て夢だったのか……?」
 —
 彼は静かに立ち上がり、歩き出した。
 何かを確かめるように、草を踏みしめて。
 —
 その時、彼の足元で、何かがきらりと光った。
 —
 しゃがみこむ。
 土をかき分ける。
 —
 そこにあったのは——
 銀色の硬貨。
 —
「……これは……」
 —
 彼の手の中にあったのは、
 見慣れぬ金属製の円形の物体。
 表には「100」と刻まれ、
 裏には桜の花が、静かに咲いていた。
 —
 アルキメデスはしばらくそれを見つめていたが、
 やがて、微笑んで、ぽつりとつぶやいた。
 —
「ならば、良い夢であった」
 —
 風が吹く。
 草が揺れる。
 空は広く、太陽はあたたかい。
 —
 アルキメデスは、その場に座り込み、
 掌の硬貨をそっとポケットにしまった。
 —
(第29話 完)


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