『金髪マダムは校門前に立つ』
朝の登校時間、都立風間台中学校の校門前で――
奇妙な“異変”が起きていた。
「ねぇ、あれ誰?」
「外国人? モデル? てか、なんで校門前に――」
生徒たちがざわつく視線の先には、
光り輝く金髪の女性が立っていた。
真っ赤なドレス、派手な羽毛のストール。肩にはプードル、口にはマドラー(←なぜ)。
ヒールは12センチ、まるで今からファッションショーにでも向かうような出で立ち。
その場違いな存在感は、完全に校門前の世界観を破壊していた。
「おっはようございまぁす♡ 生徒諸君~! 登校お疲れサマでぇす♡」
校門で仁王立ちしながら、ウインクを乱発。
金髪が朝日でギラつく。警備員も目が眩んで失神した(演出)。
誰かが小さくつぶやく。
「…あれ、PTAの……新会長……?」
* * *
彼女の名は、ユリ・ド・三崎(通称:マダムユリ)。
港区でサロン経営しつつ、謎の選挙でPTA会長に就任した非戦闘型最強マダムである。
なぜこんな人がPTA会長に?
それは一週間前にさかのぼる――
* * *
中学校の体育館。PTAの役員選出会議。
誰もが目をそらす空気の中、突然スッと手を上げた金髪の女性がいた。
「私、やりまぁす♡ PTA会長! 校門でハグするわ♡(法的にNG)」
ざわめく保護者席。
「え、誰?」
「えっと……あれは確か、先月転入してきたミサキさんのお母さん……」
その後、彼女の圧倒的カリスマと謎の拍手誘導により、満場一致で可決。
PTA会長が、一夜でド派手セレブ系金髪マダムになった。
「え?あたし何かおかしいこと言ったかしら?」
おかしいのは全てです。
* * *
さて、今朝。
登校する生徒たちはみな、彼女を避けるように小走りになった。
「あなたたち、もっと胸を張って歩きなさ~い!青春は逃げないわよ!」
そう叫びながら、突然、アコーディオンを取り出し――謎の曲を演奏し始めた。
♪チャラララ~ン チャンチャカチャーン♪
何の曲だ。
校門前の空気がどんどんカオスになっていく。
その様子を、校長室の窓から見ていたのが――
「うーむ……朝から……“強い”な……」
風間台中学校の校長、影山トオル(62)。
盆栽が趣味。夢は定年までの静かな校長生活。
しかし、マダムユリの登場により、その夢は今朝、粉々に砕けた。
* * *
その日の昼休み、職員室。
国語教師の佐藤が言う。
「校長、なんとかならないんですか? あの金髪の人、今朝ラジカセで“ファッションモーニング・コール”流してましたよ」
「え!?今時ラジカセ!?」
「“Are you ready to スクール?イエスよねベイベー!”ってやつです」
「……なるほど、無理だ」
校長が静かに言った。
だが、そんな中、一人の教師が手を挙げた。
「僕……話してみます」
そう言ったのは、地理担当の若手教師――星野アキラ。
控えめで優しいが、なぜか“パリ留学経験者”という謎のバックグラウンドを持つ。
「こういう……カルチャーショック系マダムには、対話が必要なんです」
全員(あー…これは……地雷踏みに行くやつだ)
* * *
その日の放課後。
校門前でマダムユリが“着せ替え人形型注意喚起パネル”を立てていた(手作り)。
「交通安全は、ビジュアルが命♡」
そこへ、スーツ姿で現れる星野。
「マダムユリさん……ちょっと、お時間いただけますか?」
「まぁ♡あなた、パリの風を感じるわね?私も昔、フランスで香水に目覚めて――」
「いえ。話を聞いてください」
「まぁまぁ♡飲む?」
「飲ませないでください!それ香水です!」
なんだこの会話。
だが、星野は粘った。
「――マダム。あなたの愛情は、誰よりも伝わってます。でも、校門前では“交通の妨げ”になることもあるんです」
「……まぁ」
「あなたの輝きは……中学校だけじゃ、受け止めきれない」
「……え?」
「PTAの範囲を、地域に広げてみませんか?」
その提案に、マダムユリは――
「オー・マイ・ボンジュール♡」
よくわからない返事をして、翌週から駅前に立つようになった。
* * *
現在、ユリさんは“港区ご当地金髪マダム”として、毎朝7時から
・交差点の見守り
・通行人への英語でハイタッチ(たまに拒否られる)
・道ゆく人に謎のおにぎりを配布(非公認)
そして駅の改札で、今日も言う。
「人生という名の通学路へ、いってらっしゃ~い♡」
誰も彼女を止められない。
でも、なんか……
「ちょっと元気になる」――そんな、朝である。
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