第146章 立川市:タチカワノカミのショッピングモール迷子対策
立川の朝は、大型ショッピングモールの搬入口から始まる。
開店準備に追われるスタッフ、早朝から営業するカフェの香り、屋上駐車場に群がるカラス──それらすべてを静かに見守る存在がいた。
「んー、今日も快適な立川日和!よし、パトロール開始だ!」
そう叫びながら、タチカワノカミはモールの立体駐車場にスッ……と出現した。
──この神、便利さが大好き。願いも「効率よく」「わかりやすく」「すぐ叶う」がモットーだ。
そのせいで、ときに“やりすぎる”。
そして今朝も、立川のショッピングモールにて、やや過剰な事件が起ころうとしていた。
午前10時。モール開店直後。
タチカワノカミは、お気に入りのベンチ(5階・エスカレーター前)でパンケーキを食べていた。隣では、すでに迷子が発生していた。
「おかあさーん!! おかあさあああん!!」
──3歳くらいの男児。明らかに母とはぐれた。
「出番だな」
タチカワノカミは、すぐさま“神的迷子追跡システム”を発動。各階の売場状況と防犯カメラの記憶データを連携させ、母親の位置を即座に割り出した。
「4階・雑貨屋“ヒョウ柄セールコーナー”……なぜそこに……」
神は、迷子にそっと話しかける。
「坊や、君のお母さんはヒョウ柄に夢中だ。すぐ連れてくるから、パンケーキでもどうかね」
「もぐもぐ……しあわせ……」
──願い、即達成。だが問題はここからだった。
その場を見ていた通りすがりの高校生がぽつり。
「今、神っぽかったよな……」
「今どき神もモール来んのかよ……」
──その噂、30分で全館に広がる。
午前11時。新たな願いが届く。
【願い】
「フードコートの席、平日でも地味に争奪戦。何とかしてほしい」
「任せなさい!」
タチカワノカミは立ち上がり、モールに向かって叫んだ。
「空席検知モード、解放!」
テーブルの真上に、ポワッと光る“空席ランプ”が点灯。
緑=空き、赤=使用中、黄色=「荷物だけ」の危険ゾーン。
「これ、ガチで便利……」「神アプデすぎる……」と称賛の声。
だが、数分後。全館の天井にランプを設置していたことで、家電量販店スタッフが困惑。
「お客様〜? これはうちの照明じゃないです〜」
「ちょっ、勝手に什器に魔法載せないで!」
「すいません、ちょっと……便利が過ぎました……」
──神、撤収。
正午。
屋上駐車場で、新たな“願い”が届く。
【願い】
「車の場所、どこに停めたかわかりません……(by 立川初心者・女性)」
「なるほど。来たな、立川あるある」
神はポケットから“神通チョーク”を取り出し、車の前に光るサインを書く。
《あなたの車はココです→》
さらに、依頼者のスマホに“なんとなく視線が誘導される通知”を送信。
──5秒後、彼女は無言で手を合わせた。
「いやマジで助かった……誰?」
「私は……神だ」
「は?」
「いや、気にしないで」
神、照れる。
午後2時。ついに、モール側の責任者から呼び出しが来た。
「タチカワノカミさん……ちょっと便利すぎません?」
「ダメですか?」
「いえ、助かってます……でも、ランプが突然天井に生えてるのはダメです」
「ですよねぇ」
担当者は続ける。
「ただ、迷子と車の場所問題、あれは定番なので、神様の力を“ゆるく貸して”もらえませんか?」
神はうれしそうに頷いた。
「もちろん!……便利に、やりすぎない程度に、がんばります!」
──が、それが一番難しいのだった。
夕方。
神は屋上の風に吹かれながら、今日の成績を記録していた。
《本日の願い達成:3件
やりすぎて怒られた案件:1件
パンケーキのお礼:1枚(男児より)》
「……実に、いい日だったな……」
その手には、迷子からもらったチョコペンつきのパンケーキ。
静かに味わいながら、彼は次の「便利そうな願い」を待っていた。
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