見出し画像

走れ!おじさんマラソン部

「たかが10キロじゃないか」

 そう言ってドヤ顔をキメたのは、町内会の“体力過信おじさん”こと村田義男(58歳)。
 ビール腹、謎のマッサージ器コレクション、口癖は「昔は駅伝選手だった」――

 そんな彼が、ある日、ふと貼り紙を見つけた。

【第13回 市民ゆるマラソン大会】
 ・誰でも参加OK
 ・完走したらスポーツドリンク1年分プレゼント

「……出るしかないな」

 義男の目がギラリと光る。1年分のスポドリが欲しいのか、それとも承認欲求か、それは誰にもわからない。

 家に帰るやいなや、妻に言った。

「10キロ走ってくる」

「誰が?」

「俺だよ!」

 妻はおもむろに電子体重計を持ってきて言った。

「まずこの魔法の板と向き合ってからにして」

 数字が出た。「98.7kg」

「ちょっと重めのラグビーボールくらいあるね!」

 それでも義男は止まらない。

 家の裏の空き地でこっそりジョギングを始めるも、5分で膝が「ギュルッ」と悲鳴を上げる。

「まあ、初日はそんなもんよ」

 翌日、近所のスーパーまで走る(1.2km)。
 しかし、帰りにカートを押して帰る姿を目撃され、「運動に挫折して買い物に転向した説」が流れる。

 一週間後。

 義男はついに町内に「おじさんマラソン部」なるものを発足。

 部員は義男(駅伝の亡霊)、
 杉本(72・とにかく元気)、
 川添(62・すぐ筋肉痛)、
 そしてなぜか中学生のナナミ(13・ジョギング歴5年)。

「この子が一番まとも……」

 大会当日。

 スタート地点に並ぶ200人のランナーたち。
 義男は特製Tシャツを着ていた。

【前:駅伝なめんな】
【後:走ったらビール】

 まわりがじわっと避けていく中、ナナミが言う。

「村田さん、準備運動しました?」

「してないよ、だって本番が準備みたいなもんじゃん?」

 ナナミがため息をついた瞬間、ピストルが鳴る!

 5キロ地点。

「はぁ、はぁ……まだ半分か……」

 義男の呼吸はすでに細い。
 川添はストレッチ中。杉本は走りながら梅干しを食べている。

 ナナミだけが軽やかに進む。

「おじさん、まだ?」

「ま、待て若者……俺には“歩きながら走る”って技があるんだ……」

「それ歩いてるだけ!」

 そして、残り2キロ。

 義男の脳裏には、過去の駅伝大会がよみがえる――
 実は「タスキを忘れて失格になった人」として語り継がれているのだ。

(あのとき……本当に走れなかった……でも今日は……今日は違う!)

 足は痛い。心臓も「え、俺まだ動くの?」と訴えてくる。

 だが、沿道から「がんばれおじさんマラソン部ー!」の声援!

 小学生がプラカードを振っていた。

【おじさんも、走っていい。】

 義男、涙目。

「うおおおおお!!」

 ラストスパート。
 全身が揺れる。地面も揺れる。
 多分、空気も「え、来るの?」ってざわついていた。

 ゴール!

 義男、しゃがみこむ。膝から変な音が鳴る。

 だが、記録:1時間17分48秒。
 完走者の中で「最も期待されていなかった部門」1位を受賞。

 そして……スポーツドリンク1年分を、満面の笑みで受け取る。

「よっしゃ、これでビール割り放題だぁぁぁ!」

 ※ナナミに即怒られました。

 現在、おじさんマラソン部は活動を拡大中。

「走る距離より、笑った回数のほうが多いね!」

 それでいいのだ、おじさんたち。

 今日も、町のどこかでビール腹が揺れている。

 

いいなと思ったら応援しよう!

Goldness 楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。