中学校全校集会、異常なし。
「みなさん、静かにー! はい、そこ体育座りしてくださーい!」
朝の体育館に響く拡声器の声。中学校恒例の「全校集会」だ。
「さて、まずは校長先生のお話です。拍手〜!」
パチ……パチ……パチパチパチパチ……
なぜか拍手が三段階で波打つ。生徒たちは慣れたものだ。どのタイミングで本気出すか、探っているのだ。
登壇したのは、校長・大船茂。身長190センチ、アーム・スパン(両手を広げた長さ)も190センチ。職員室では「船」と呼ばれている。
「うむ。おはようございます」
「……(無言)」
「返事がない。屍のようだ」
一部の男子がくすっと笑った。ドラクエ世代だ。
校長は気を取り直し、話し始める。
「本日は、最近話題の“校門前チョコバナナ販売問題”についてお話しします」
体育館の空気がざわめく。
「あれは保護者会の発案による、健全なスナック交流イベントでありまして……」
「健全ってなんだ……」「なんでバナナにチョコを……」という疑問が生徒の心をさまよう中、校長は自信満々に続ける。
「バナナは、黄色い。チョコは、茶色い。この色のコントラストは、“協調性”を表しているのです!」
「んなわけあるかぁあああああ!」
どこかから飛んだ突っ込みが、集会の空気をひとつにした。
「静粛に!」と叫ぶ教頭の声が響く、校長は続ける。
「私はチョコバナナの校長として、これからも“協調性”を推し続けます!」
「たぶんPTAが強くて逆らえないやつになってるんだよ……!」とまた突っ込まれるが、教頭がすかさず話題を変える。
「次に、生徒指導部より“靴下の色”についての指導です!」
壇上に現れたのは、生徒指導の鬼・小此木先生。異名「ソックス・スナイパー」。
「お前たち、白以外は靴下ではない。もはや靴皮だ。もしくは足布だ」
誰もが毎年聞かされているこの謎理論。しかし今日は様子が違った。
「だが、最近“見せソックス”という新手が現れた。ふくらはぎの上のほうだけ白で、下がチェック柄になっているヤツだ。貴様らの中に“偽装白”がいる!」
偽装白……!
ざわつく生徒たち。中学三年、川島の靴下がじんわりとズームアップされるような雰囲気。
「川島、立て」
「……はい」
川島は立ち上がり、スラックスをまくる。
「うっ、これは……!」
小此木先生が叫ぶ。
「白と見せかけて、下からパンダ柄ァァァァアア!」
「パンダって何だよぉぉ!」
川島、涙目で着席。
だが、ここからが“本題”だった。
「続いて、生徒会長より“学校行事改革案”の提案があります」
生徒会長・三年の優等生、林原なつめが壇上に立つ。
「皆さん、今年の“持久走大会”について提案があります」
体育館がピクリと動く。
「距離を……“10メートル”にします」
「えええええええっ!!」
「その代わり、全員“全力疾走”です。しかもコースは“直角三角形”です」
「どうやって走るのそれ!!!」
説明によれば、グラウンドにでっかい三角形を描き、10メートルを3辺に分けて走るらしい。スタートしたらいきなり直角カーブ。
「心臓と関節にやさしく、しかしキレ味のある体力測定が可能です!」
なつめの目は真剣そのもの。担任の先生たちも拍手している。体育の先生は泣いている。
「長距離走じゃねぇよ!三点走だよ!」
だが、なんだかんだで拍手は起きた。理由は一つ――「走る距離が短いなら、すべて良し」。
かくして、全校集会は無事(?)終了。
その日の午後、掲示板に貼られた通達。
《持久走大会:距離10m、三角形コース、給水所あり、途中チョコバナナ補給ゾーンあり》
――誰がそんな大会設計したのか。
だが学校は今日も、少しずつ、おかしな方へ前進している。
これが、リグロア中学校の“ふつうの日常”だった。
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