『鬼嫁バスターズ外伝:鬼、町内の役員になる』
町内会役員改選会――それは、誰もが避けて通りたい恐怖のセレモニーである。
朝イチの公園掃除、年末のもちつき大会、盆踊りに夜警にリサイクル回収……
「なりたい人は?」「はいっ!」などという手の挙がる光景は、ドラマの中でしか見たことがない。
にもかかわらず、今年の役員会には異常事態が発生した。
「副会長に立候補します!」
大声で手を挙げたのは――全身赤タイツ、金棒を持った、角付きのおっさんであった。
* * *
「いや待て待て待て。お前誰だ」
会長が声を張ると、その男はドヤ顔で名乗った。
「名乗るほどの者ではないが……まぁ、呼ばれてないけど来ちゃった系の“鬼”だ!」
「雑!!」
「いやいやいや、鬼ってあの!? 桃太郎のアレの!?」「なんで!?」
「町内会にも、鬼の視点が必要だと思いまして」
「何の視点よ」
* * *
【鬼のプレゼン:「私が副会長になる理由」】
「皆さん、町内会って、なんとな〜く“鬼ごっこ”みたいになってません?」
「……はい?」
「“誰がやるの?”っていう無限の鬼ごっこです!『おまえが鬼な!』『いやお前が鬼!』って押し付け合い!」
「それは……否定できん……!」
「だから私は言いたい!“ならば、最初から鬼である私がやるしかあるまい!”」
「うわ……! 正論っぽいけど意味わからん!!」
* * *
【鬼の活動内容:】
・子ども会の見回り→「悪い子には金棒シャドウ」
・交通当番→信号無視した車に「目力」
・資源ゴミの不法投棄→夜な夜な“鬼の影”でプレッシャー
「怖い怖い怖い!町内会、ホラー組織になるってば!」
「だがな……実際、町内のマナーが良くなったのも事実だぞ?」
「えっほんとに!?」
「最近、子どもたちが“ゴミ捨ての鬼ごっこ”とか言って率先して分別してる」
「教育効果あり!?」
* * *
【問題発覚】
……が、鬼にも弱点があった。
――暑い。
「赤タイツ、マジで熱い。地獄かよ……いや地獄だったわ」
夏祭りでは倒れかけ、花火大会では熱中症寸前。
役員会で唯一、保冷剤持参義務が課された男。
「鬼って、火の耐性なかったっけ……」
「設定の詰めが甘い」
* * *
【鬼の家庭の事情】
「実は、私の妻も“鬼嫁”と呼ばれておりまして」
「お、おぅ……」
「それを払拭したいんですよ。“鬼”=“悪い”という偏見を!」
「鬼族の社会運動!? 今そんなフェーズ!?」
「実際、うちの嫁、ゴミ当番一回も忘れてないし、町内の寄付金、誰よりも早く振り込んでる!」
「えっちゃんとした人だった!」
「ただ……言い方がすべて命令形なんです」
「うわああ~っなるほど鬼嫁!!」
* * *
【感動の(?)エピソード】
ある日、町内の公園で泣きじゃくる子どもがいた。
砂場のスコップが取られたらしい。
そこへ鬼、颯爽と登場。
「こら〜スコップ返してあげなさ〜い。じゃないと金棒出るよ〜ん」
「ぎゃーっ!!」
スコップ、即時返却。
だが――
「ありがとう……おじちゃん鬼、こわいけど……やさしい」
その瞬間、鬼の瞳に光る一粒の涙。
「……鬼にだって……心はあるんだよ……」
その場にいた全員が、ちょっと感動しかけた。
* * *
【ラストの議決】
「――というわけで、立候補者が鬼だけですが、いかがしますか?」
会長が議事録を見ながら問う。
沈黙の中、一人の老婆が言った。
「わしゃぁ、鬼が副会長でもええと思うよ。少なくともあの人、派手だけど仕事はする」
「賛成」「私も」「鬼、案外いい人だし」
全員、手を挙げた。
「では……決定です」
「うおおおおぉぉぉ!」
赤タイツの男が、金棒を空に掲げた。
「俺が……副会長だあああぁぁぁぁ!」
町内会に、地味に熱い歓声が響いた。
* * *
【後日談】
鬼副会長の導入により、町内の行事参加率は前年比+43%。
“鬼のスピーチ”がテレビで特集され、「キャラ採用と自治の融合」モデルとして研究対象となった。
鬼嫁は「鬼嫁じゃなくて“できる妻”と呼べ」と宣言し、婦人会会長に立候補。こちらも当選した。
かくして、町は――鬼によって、平和になったのであった。
いいなと思ったら応援しよう!
楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。