指さないでください
「ねえ、いま“指さした”よね?」
そう言って振り返ったのは、コンビニのレジにいた、やたらと目力の強い中年男性だった。指を向けたのは、ただ友人に「おにぎり売り場、あっち」と教えようとしただけの大学生・佐藤ユウト。
「いや、すみません。あの、ただ友達に……」
「ダメだよ君、街中で不用意に“右に向けた手”出したら。いろいろ起きちゃうよ?」
「え、なにがですか……?」
その日を境に、ユウトの「右手」はおかしくなった。
いや、右手自体は普通だ。問題は、「右に向けて人差し指を出す」と、なぜか《指さした方向に問題が発生》するのである。
最初は軽い出来事だった。
右に向けて「自販機あっち」と指すと、売り切れ続出。
「トイレそっち」と指すと、トイレ使用中止の札。
「行こう」と指したカフェは、たまたま“店休日”。
「偶然、かな……?」
3日後、確信に変わった。
大学で。
「先生、授業プリントそっちにありますよ」👉
その瞬間、プリントが風で飛んで教室外に舞う。
友人との会話。
「やば、カンニング防止の監視カメラ、あっちじゃね?」👉
その瞬間、監視カメラがジジッと壊れる。
「なにこれ……右手だけ呪われてんの!?」
心配した親友の中村が、真顔で言った。
「それ、絶対“あの日の中年男性”が原因だって」
「でも、あの人普通の人っぽかったよ?」
「“普通の人”が“指さしトラブル注意”なんて警告してくるか?」
そこでユウトは思い出す。
あのとき──
「指さしは“流れ”を狂わせるから、慎重に使え」と言われた気がする。
その夜、ユウトは夢を見た。
真っ暗な部屋。
中央にスーツを着た“指導員”らしき男が立つ。
「佐藤ユウトくん。君は『右に向けた手の力』に目覚めた」
「いや、目覚めたくないです」
「これは、古より伝わる“方向指示系超能力”。だが副作用がある」
「知ってます。“全部台無し”になるやつですよね」
「正確には“指した方向にズレが発生する”現象だ」
「ややこしいな……!」
「これは“方向社会の平和を守る者”にのみ許される技。試されているのだ、君は!」
「すっごく拒否したいです!」
翌日、ユウトはひとつの決断をした。
「もう、人前で指さすのはやめよう」
極力、手ぶりもなし。
説明も全部、音声で済ます。
「おにぎり、あっち」→「コンビニの奥です」
「カフェ」→「えーと、左手側の通り沿いです」
ちょっと丁寧な人っぽくなってモテるかも、と思っていた。
が──
「え、あれ、指さしキャラじゃないの?」
「なんか“やる気ない”感じに見える」
「指でズバッと決めるのがユウトのよさだったのに……」
なんと、女子からの“地味キャラ扱い”が始まった。
悩んだユウトは、再びコンビニを訪れた。
あの男はいた。
レジに、今度は“傘の柄で左耳をかいて”いた。
「すみません……右に向けた手の件なんですけど……」
「ああ。使いすぎた?」
「“使ってない”のに不便になってます」
「それはね、指さしの“心”を見失ってるから」
「指さしに心……?」
「あれは“方向を伝える”んじゃない、“思いを飛ばす”行為なんだよ」
「急にスピリチュアルっぽくなったな」
「試しに、心を込めて“誰かのため”に指してみな?」
数日後。
迷子になって泣いている子どもがいた。
母親を探して、駅のホームで不安げに立っている。
ユウトは考えた。
そして、静かに右手を伸ばし、駅員に言った。
「すみません、あの子のお母さん、たぶんあっちの改札です」
👉
その瞬間。
構内放送で「○○ちゃんのお母様、お子様が改札でお待ちです」のアナウンス。
奇跡的なタイミングだった。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
そう言って頭を下げた母子。
ユウトは、久しぶりに“右手”が光った気がした。
それ以降、彼はルールを決めた。
「指さしは、人のためだけに使う」
その日から、ユウトは「方向の導き手」として、誰かに頼られる存在になっていった。
もちろん、間違って自販機に指さしたら“生ぬるい紅茶”が出てきたけど、それはそれで“ズレ”の愛嬌かもしれない。
いいなと思ったら応援しよう!
楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。