第一話「圖書館の奧に神話は眠る」壹
旧字Ver 第一話「圖書館の奧に神話は眠る」壹
窗の外では梅雨の雨が靜かに圖書館のガラスを濡らしていた。館内はひんやりと凉しく、どこか神聖な空氣すら漂っている。中央市立中央圖書館──その名にしては規模はこぢんまりとしていたが、今は特設展「古事記・日本神話展覽會」が開かれていた。
「わあ……これが『天地開闢』の卷物……!」
カイの瞳がキラキラと輝く。彼女は展示ケースに顏をぐっと近づけ、鼻息がガラスに小さな曇りを作っていた。
「……おい、曇ってるぞカイ。鼻息で神代の歷史を曇らせるなよ」
鄰でタカシが呆れたように言いながらも、彼自身も目を輝かせていた。展示ケースの中にあるのは、古びた和紙に精緻な筆致で描かれた天地創造の繪卷。アメノミナカヌシ、タカミムスビ、カミムスビ……髙天原の神々が、金色の雲の上で何やら重要そうに會議をしている。
「いや〜、でも本物の寫しを見られるなんて、最髙じゃない? あの三柱の獨り神たち、グノーシスの原初存在とも繋がるとか言われてるんだよ?」
「またオカルトだよカイ。古事記は日本の神話體系の根幹なんだ。歷史的文獻として見ないと」
「ふふ、歷史と神祕は表裏一體だって、ヤタガラス先生も言いそうだよね!」
と、盛り上がる二人の閒に――
「ごほん」
背後から妙に通る咳拂いが聞こえた。振り向くと、係員の制服を着た中年男性が、どこかにやけた顏で立っていた。
「こちらの卷物は最近發掘されたばかりの特別展示品でしてね。珍しいものですよ。この天地開闢圖は、實はまだ解讀途中の部分も多いんです」
「解讀途中?」
タカシが思わず食いついた。係員は嬉しそうに頷く。
「はい。實はこの卷物の末尾部分に奇妙な付錄がありまして……ご覽になります?」
二人はすぐさま頷いた。係員はそっと別の展示ケースのカバーを開け、中から一枚のカードを取り出した。やや古ぼけた羊皮紙に、鮮やかな金の文字が刻まれている。
【黃泉歸りカード】
「……なにこれ」
カイが目を丸くした。カードの中央には、三本足のカラスの紋章が描かれていた。タカシも眉をひそめる。
「黃泉歸り……つまり、死者蘇生の呪具的な?」
係員は曖昧に笑った。「まあ、ある種の招待劵とも解釋できますね」
カイがカードの裏をまじまじと讀む。
――※ご使用の際は事前に正しい儀式手順をご確認ください。副作用:轉移先による記憶混濁、一時的存在不安、物理法則の逸脫。自己責任にて使用のこと――
「說明が雜!」
「注意書きが胡散臭すぎる!」
タカシとカイが同時にツッコんだ。だが、その時だった。
カードが突然、淡く光を放ち始めた。ピリリリリ……と靜電氣のような音が走る。
「え? え? ちょっと待って、なにこれ!? 本物の呪具!?」
カイが慌ててカードを持ち直すが、カードはまるで意志を持ったかのように浮かび上がった。タカシも思わず身を乘り出す。
「ちょ、ケースの中だろ!? 物理法則、逸脫してるぞ!」
次の瞬閒――天井の照明がバチッと消え、圖書館全體が金色の光に包まれた。
ポポポポポン──!
「うわっ、なに!? 發光現象? プラズマ?!」
タカシが叫ぶ閒もなく、空閒がぐにゃりと歪んだ。周圍の本棚がぐるぐると囘轉し、まるで萬華鏡の中に飮み込まれていくようだった。
「三半規管迷子になるぅぅぅううっ!」
カイが目をぎゅっと閉じて叫ぶ。足元からも風が卷き上がり、二人はあっという閒に宙に浮かび始めた。
「こ、これは……!」
タカシが必死に目を凝らすと、彼らを包む光のトンネルの中央に、黑く渦卷く三本足のシルエットが現れた。
「おや? ようこそ、學びの迷宮へ――」
聞き覺えのある、どこか飄々とした聲が響く。
「ヤタガラス!」
二人が叫んだ瞬閒、トンネルの出口が開いた――
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新字Ver 第一話「図書館の奥に神話は眠る」壱
窓の外では梅雨の雨が静かに図書館のガラスを濡らしていた。館内はひんやりと涼しく、どこか神聖な空気すら漂っている。中央市立中央図書館──その名にしては規模はこぢんまりとしていたが、今は特設展「古事記・日本神話展覧会」が開かれていた。
「わあ……これが『天地開闢』の巻物……!」
カイの瞳がキラキラと輝く。彼女は展示ケースに顔をぐっと近づけ、鼻息がガラスに小さな曇りを作っていた。
「……おい、曇ってるぞカイ。鼻息で神代の歴史を曇らせるなよ」
隣でタカシが呆れたように言いながらも、彼自身も目を輝かせていた。展示ケースの中にあるのは、古びた和紙に精緻な筆致で描かれた天地創造の絵巻。アメノミナカヌシ、タカミムスビ、カミムスビ……高天原の神々が、金色の雲の上で何やら重要そうに会議をしている。
「いや〜、でも本物の写しを見られるなんて、最高じゃない? あの三柱の独り神たち、グノーシスの原初存在とも繋がるとか言われてるんだよ?」
「またオカルトだよカイ。古事記は日本の神話体系の根幹なんだ。歴史的文献として見ないと」
「ふふ、歴史と神秘は表裏一体だって、ヤタガラス先生も言いそうだよね!」
と、盛り上がる二人の間に――
「ごほん」
背後から妙に通る咳払いが聞こえた。振り向くと、係員の制服を着た中年男性が、どこかにやけた顔で立っていた。
「こちらの巻物は最近発掘されたばかりの特別展示品でしてね。珍しいものですよ。この天地開闢図は、実はまだ解読途中の部分も多いんです」
「解読途中?」
タカシが思わず食いついた。係員は嬉しそうに頷く。
「はい。実はこの巻物の末尾部分に奇妙な付録がありまして……ご覧になります?」
二人はすぐさま頷いた。係員はそっと別の展示ケースのカバーを開け、中から一枚のカードを取り出した。やや古ぼけた羊皮紙に、鮮やかな金の文字が刻まれている。
【黄泉帰りカード】
「……なにこれ」
カイが目を丸くした。カードの中央には、三本足のカラスの紋章が描かれていた。タカシも眉をひそめる。
「黄泉帰り……つまり、死者蘇生の呪具的な?」
係員は曖昧に笑った。「まあ、ある種の招待券とも解釈できますね」
カイがカードの裏をまじまじと読む。
――※ご使用の際は事前に正しい儀式手順をご確認ください。副作用:転移先による記憶混濁、一時的存在不安、物理法則の逸脱。自己責任にて使用のこと――
「説明が雑!」
「注意書きが胡散臭すぎる!」
タカシとカイが同時にツッコんだ。だが、その時だった。
カードが突然、淡く光を放ち始めた。ピリリリリ……と静電気のような音が走る。
「え? え? ちょっと待って、なにこれ!? 本物の呪具!?」
カイが慌ててカードを持ち直すが、カードはまるで意志を持ったかのように浮かび上がった。タカシも思わず身を乗り出す。
「ちょ、ケースの中だろ!? 物理法則、逸脱してるぞ!」
次の瞬間――天井の照明がバチッと消え、図書館全体が金色の光に包まれた。
ポポポポポン──!
「うわっ、なに!? 発光現象? プラズマ?!」
タカシが叫ぶ間もなく、空間がぐにゃりと歪んだ。周囲の本棚がぐるぐると回転し、まるで万華鏡の中に飲み込まれていくようだった。
「三半規管迷子になるぅぅぅううっ!」
カイが目をぎゅっと閉じて叫ぶ。足元からも風が巻き上がり、二人はあっという間に宙に浮かび始めた。
「こ、これは……!」
タカシが必死に目を凝らすと、彼らを包む光のトンネルの中央に、黒く渦巻く三本足のシルエットが現れた。
「おや? ようこそ、学びの迷宮へ――」
聞き覚えのある、どこか飄々とした声が響く。
「ヤタガラス!」
二人が叫んだ瞬間、トンネルの出口が開いた――
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