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第108章 渋谷区:シブヤノカミの願い

 スクランブル交差点を見下ろすビルの屋上で、奇妙な格好の神様がひとり、仁王立ちしていた。

 その名はシブヤノカミ。
 派手好きで流行に敏感。
 原宿でコーデを整え、センター街でトレンドを吸い、宮下公園でカフェラテを手に占う。

 「きょうの運勢……“バズらず迷走”。ふむ、そろそろ人間の願いを叶えてみるか」

 指をパチンと鳴らすと、タピオカドリンクのストローが渦を巻き、渋谷の空に吸い込まれていった。

 

 その頃、渋谷の路地裏で、桃佳は「どうするか問題」を抱えていた。

 「えー、来週のプレゼンで“若者の流行”について話すって……私、もうギリZ世代なのに!」

 会社のマーケ部で働く桃佳は、毎回“イケてる企画”を求められていたが、今回は難題だった。

 「今の若者がハマる“目新しいモノ”って何? マジでSNS見てても何がバズってるかわかんないよ……」

 するとそのとき、目の前に現れたのは、金髪にスパンコールのジャージを着た謎の人物。

 「Yo!ギリZ世代代表!お悩み相談と聞いて登場、これぞスピリチュアル!よろしくシブヤノカミ!」

 「……え、誰?」

 「神です。都会系限定、出張スタイル。願いを一個、叶えます」

 「じゃあ、流行がわかる脳みそください」

 「物騒。でもOK。わかりやすく脳を“ギャルフィルター”に変換して差し上げましょう」

 「ギャルフィルター!? それってどういう――」

 

 ――翌日から、桃佳の脳内変換は始まった。

 会社のエレベーターに乗った瞬間。

 (上昇する空間、めちゃアガる〜↑↑)

 会議で課長の資料を見たとき。

 (このグラフ、地味に“ぴえん”なんだけど……)

 さらには会議室でプレゼン中の後輩を見て。

 (このトーン、陰キャ感つよつよ。もっとバイブス上げてこ〜)

 ……完全に脳内がギャルモードである。

 

 同僚の聖心が心配して言う。

 「桃佳さん、最近キャラ変しました?」

 「えっ、てかそれマジ卍? てか普通にヤバい?」

 「……すごくヤバい。大丈夫ですか?」

 「安心して!今日の自分、わりと盛れてるから!」

 

 しかし、その“フィルターの力”は意外なところで爆発した。

 社内企画会議。
 プレゼン資料のタイトルは――

 《やっぱ令和はコレでしょ☆激アツ流行3選〜シブヤからの逆輸入SP〜》

 内容はこうだ。

 ・電車内で謎のフリップ芸を披露するおじさん → “謎解き路上ライブ”として流行の兆し
 ・公園で集団カセットテープ鑑賞会 → “アナログシブヤ”として若者回帰の予感
 ・ファッションは“昭和感フル装備ジャージ” → “逆に新しい”と絶賛され、Z世代刺さりまくり

 「こんなのが……ウケるのか?」と上司が呟くと、社長がポツリと一言。

 「面白い。やってみろ」

 「え?」

 「なんか“逆にイイ”だろ。これが時代感ってやつだよ。知らんけど」

 

 こうして桃佳の“ギャル視点企画”は通った。
 しかも、撮影した動画が一部Tik〇Tokでプチバズり。

 「ギャルって、やっぱ未来……?」

 と呟いた瞬間、シブヤノカミがフッと現れる。

 「そろそろフィルター、戻しとく?」

 「えっ、そんな簡単に!?」

 「あと3日そのままにしとくと、“語尾が完全にGAL化”するからギリギリ」

 「今もう“語尾がYO!”って言いそうだったわ」

 「もう言ってるYO!」

 

 結局、ギャルフィルターが外れた後も、桃佳のプレゼン力はなぜか上がっていた。

 「流行って、見つけるもんじゃなくて、ノッてみるもんなんだよね」

 そう言いながら、今日も桃佳は、
 自販機で謎に派手な「バイブスティー」(監修:シブヤノカミ)を買う。

 「ってかこのお茶、テンアゲなんだけど」

 ……あれ? フィルター、まだちょっと残ってる?

 ──完──


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