第107章 徳島市:トクシマノカミの願い
徳島駅前にて、日向はバイト終わりのパンを片手に、ぼんやり空を見ていた。
「やるべきことは、終わった。でも……このあと何すればいいんや」
彼の“やるべきこと”とは、商業高校の卒業制作として作った「阿波踊り×パン屋」のイベント企画。見事に大成功を収め、先生からは表彰、地元紙からも取材――それは確かに達成感のある結末だった。
だが。
「ほんで、そのあとが空白なんよな……」
喪失感と呼ぶには大げさだが、何か大事なイベントを終えた後の“スカッとした虚無”が日向を包んでいた。
そんなとき、突然目の前で“何かが踊りながら”降ってきた。
「ほーらよっとォ!」
「うわっ!人が!踊りながら!落ちてきた!?」
正確には、交差点の歩道橋の上から飛び降りつつ、全身で阿波踊りをしていた謎の人物が、軽やかに着地しただけだった。
全身に鳴り物を装備、くるぶしから三味線までフルセット。
その姿はどう見ても、派手すぎる神様だった。
「オレこそが、阿波踊りの化身!――トクシマノカミっ!」
「カミって……あんた、ただの阿波踊りオタクやろ」
「オタクと神は紙一重☆」
妙にキラキラした笑顔で、トクシマノカミは勝手に日向の腕を取る。
「よっしゃ、一曲いっとこか!」
「いや、流れ的に“相談に乗る”とかじゃないの!?」
――結果、踊った。
駅前で阿波踊りをフルスロットル。通行人が「おっ」と足を止め、「あらまあ」と手を打ち、「なにこれ」と動画を撮る。
息が切れたころ、神様が耳元でつぶやく。
「やるべきことがなくなった? ちゃうやろ。“やりたいこと”がまだあるやろ?」
「……それが、わからんのよな」
「じゃあ、今すぐはわからんでもええ。“ノってくる感覚”を、今日みたいに増やすんや」
それから日向の周りで、不思議な偶然が増えた。
・自販機のジュースが“阿波踊り限定・ゆず炭酸”ばかり出てくる
・道ばたで落とし物を拾ったら、踊るキャラクターのキーホルダー
・学ランの背中に「踊る者、来たれ」の刺繍(誰が縫った)
気づけば、学校内で「踊れる商業高校生」として、いろんな催しに引っ張りだこになっていた。
体育祭→開会式パフォーマンス
文化祭→踊る模擬店(“回転焼き回りながら焼きます”)
地元放送→“踊る高校生日向くん、今日も元気”
ある日、進路希望の提出書類の前で止まる日向に、担任が声をかけた。
「日向。お前の将来、なんかイメージついたか?」
「……自分でも意外やけど、踊りと商い、両方使える場所がええんかなって」
「まさかとは思うが、“阿波踊りの会社”とか言い出すなよ」
「……あるんやって、実は。地域イベント企画会社。“踊れるスタッフ優遇”って書いてあった」
担任は大笑いしながら、「お前の人生、派手やな」と呟いた。
週末。再び駅前に立った日向は、空を見上げながら深呼吸をした。
「なんや、あいつの言ってた“ノってくる感覚”……本物やったんかもしれんな」
そのとき、遠くから聞こえてきたのは、
「そいやっさー!ほいさっさー!」
……あの神様である。
「よぉ!また駅前踊ってんのかい!」
「やるべきことなくても、踊ってりゃ道は見える!」
「ほんで今日はなんの用や!」
「おう、今日は日向くんの合格祝いパーティ。踊りメイン、パンは添えるだけ!」
「パンも出んの!?」
地元で生きるということ。
好きなものにちゃんとノれるということ。
神様が踊りで教えてくれることは、意外と深いのかもしれない。
「“人生は祭りや”。その言葉、だんだん実感してきたわ」
──完──
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