見出し画像

ドラゴン、サイズ間違えて降臨す

 魔導士たちが集う「星降りの儀式」は、年に一度行われる超重要イベントだ。今年の主役は若き召喚士・蒼大。己の名誉と王国の威信を賭けて、彼が召喚したのは、伝説に記された神竜――

 ……のはずだった。

「来い、炎の覇者! 大空を裂く翼よ! 我が名は蒼大、汝に呼応せよ!」

 蒼大の詠唱に光が炸裂し、地面が震え、空が割れた。

 そして、現れた。

「きゅいっ」

「……あ?」

 そこには――

「わん!」

 ……毛玉だった。

 *

「ま、待ってください、これは何かの間違いでは?」

 王立魔術院の教授たちはざわつき、召喚陣の前で蒼大は冷や汗をかく。

「う、うそだろ……召喚成功率98%って聞いたんだけど……」

「このちっこい生き物が、神竜……?」

 召喚陣の中央で、ごろりと転がった生き物は、耳がピンと立った、赤毛の子犬……のような何かだった。

 しっぽには微妙に火が灯っている。

 目は金色で、鼻をぺちぺち鳴らしながら――

「わん!」

 吠えた。

「喋れねえじゃん!!」

「言語パッケージ入ってないタイプか!」

 *

 数日後。

 蒼大の自室では、その“ドラゴン”が絨毯の上でくるくる回っていた。

「名前、どうするかなあ……“アグニ・オブ・ヘルフレイム”は長すぎるよな」

「わん!」

「そうだな。君にそんな重厚な名前は無理だ」

「わん!」

「……“タマ”でどうだ」

「わん!」

 賛成らしい。

 *

 街では早くも「召喚された神竜が犬サイズだった」ニュースが広まり、酒場では

「もう、あれだな。次は“ちび勇者”とか来るかもな」

「ちび竜 vs ちび勇者、異世界プロレス興行だ!」

 と、連日盛り上がり中である。

 蒼大はというと、気がつけば“神竜育成日誌”をつける日々になっていた。

【三日目】
 タマ、洗濯物に放火。しかも反省しない。

【六日目】
 風呂場にて謎の火球を噴射。洗面器が蒸発。

【十日目】
 俺の枕を巣にして寝た。寝返りできない。

「これで本当に伝説級なのか……?」

 寝不足の目をこすりながら、蒼大はため息をついた。

「俺の人生、どこで間違ったんだろう」

「わんっ!(そこまで言う!?)」

 *

 ある夜。

 王都を脅かす巨大ワイバーンが現れた。街の人々は恐れおののき、騎士団も壊滅寸前。

 蒼大はタマを抱えながら、どうするか悩んでいた。

「さすがに無理か……いや、でも……」

 そのとき、タマが前足で床をカリカリと掻いた。

「……お前、行く気か?」

「わん!」

「まじかよ……!」

 *

 タマはぴょん、とワイバーンの前に跳ねた。

 ワイバーンが見下ろす。

 タマ、しっぽフリフリ。

 ワイバーン、威嚇の唸り。

 タマ――くしゃみ。

 次の瞬間、周囲一帯が吹き飛んだ。

 爆発音、閃光、煙。

 そして残されたのは、焦げた地面と、お腹を出して転がるちびドラゴン。

「……あ、倒した」

 王都が静まり返った。

「今の、あの毛玉か……?」

「まさか、本当に神竜だったのか……?」

 その晩、王国は救われた。

 *

 翌朝。

 蒼大は、寝そべるタマの横で新聞を読んでいた。

『神竜、寝て倒す。新時代の到来』

「……なんだこの見出し。まるで俺の活躍がなかったみたいじゃん」

「わん!(事実でしょ)」

「くっ……!」

 だが、タマがそっと蒼大の手に頭を擦り寄せたとき――

「あー……まあ、いいか」

 そんな気持ちになった。

「次の儀式では、もうちょいサイズ調整頼むよ」

「わん!」

 果たしてその“わん”が「了解」なのか「無理」なのか、蒼大にはまだわからない。

 ただ、これからも彼と“ちびドラゴン”の生活は続いていく。

 火を噴いたり、噛みついたり、ときどき大爆発したりしながら。

いいなと思ったら応援しよう!

Goldness 楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。