【bon15:福岡県_炭坑節と掘ってはいけない場所を掘った男】
「掘って掘ってまた掘って~♪」
雄大がスコップを振り回しながら歌っていた。
「ちょ、待って!? 掘るのは踊りの比喩であって、実際に掘るな!!」
美琴が全力で止めに入る。
ここは福岡県・炭坑節のふるさととされる地のひとつ、田川市の盆踊り会場。
「だってさ、ほら、炭坑節って炭鉱で働く人たちの歌でしょ?だったら俺も掘らないと!」
「そういう論理展開やめて!? 踊れ! 掘るな!!」
会場では既に太鼓のリズムが鳴り響いていた。
♪ 月が~出た出た~ 月が~出た~ヨイヨイ~
「うわっ、テンポ思ったより重厚!」
拓朗が思わず背筋を伸ばす。
軽快に見えて、足腰にくる“ずっしり系リズム”。しかも踊りのステップもリズミカルで全方位。
「これは……炭坑で働いた人たちの“耐久リズム”……!」
小百合が汗を拭きながら言った。
その時、中央に立つ一人の男が――久宗。
大柄で温厚そうな顔つき。踊りの輪では誰にでも笑顔で合わせ、初心者の動きにも自然と歩調を揃えていた。
「……この人、空気になじみすぎてて存在感が逆にすごい」
ジャニヤが小声でつぶやいた。
そんな久宗が、雄大を見てにこっと笑った。
「お兄さん、スコップはあとにして、一緒に踊らんね?」
「……え、俺……踊っていいの?」
「当たり前やん。踊りはな、うまいか下手かより、“そこに居るか”が大事っちゃん」
「……! 今、心に響いた!!」
雄大、スコップを捨てて踊りに突入。
「投げるなーッ!!」
太鼓の音に合わせて、輪がひとつ、ふたつと大きくなる。
そのなかに、本気で踊る雄大の姿があった。スコップは捨てたが、手つきは明らかに「掘ってる」。
「いや、それ“見えないスコップ持ってる”状態よ!?」
美琴が遠くから心の中でだけ叫ぶ。さすがにツッコミ疲れが出てきたらしい。
だが、久宗はニコニコしながらその隣で踊っていた。
リズムが少しずれても、ステップが逆になっても、決して止めない。合わせる。支える。
まるで炭鉱の現場で、仲間を支えるような温かさだった。
「……なんか、踊ってるっていうより“作業してる”っぽく見えてくる」
拓朗が呟いた。
「炭坑節ってそうなのかも。体を使った営みの延長にある踊り……っていうか、“暮らしごと”」
はづきがしみじみと語る。
そのとき、輪の中心から声が上がった。
「さあ!最後は“炭坑節ジャンボライン”作りますよ~! 会場全員で、ひとつの大きな輪に!」
広場いっぱいに人がつながっていく。
その最中、雄大が――
久宗と並びながら、自然に“隣の人のリズム”に手を合わせていた。
今までの彼なら、暴走して先走っていたはずだ。
でも今日は、まわりの動きを見ていた。少し遅れてでも、ちゃんと「みんなに合わせる」ことを選んでいた。
「……あの人、成長したなあ……」
ジャニヤが静かに言った。
啓もうなずいた。
「“掘る勇者”から“踊る仲間”へ……」
「詩的すぎるわ!」
美琴が突っ込むが、目がちょっと潤んでいた。
炭坑節のラスト拍――
ドン! ドン! ヨイヨイッ!
空には、煤煙ではなく、花火が上がっていた。
――なお、雄大の持っていたスコップは翌日、町内放送で「誰かの情熱が込められた不明なスコップ」として届け出られた。
(bon15:End)
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