【bon14:岐阜県_郡上節と徹夜で間違え続ける男】
「この地に来たからには、徹夜で踊らねば失礼――」
そう言いながら登場した雄大の服装は、どこからどう見てもパジャマだった。
しかも上下で柄が違う。なぜか猫とギター。
「なにその“寝る気満々で踊る気ゼロ”ファッションは!?」
美琴のツッコミが空に響く。
ここは岐阜県・郡上八幡。石畳の城下町が、今宵の踊り一色に染まっていた。
「いや、“徹夜”って聞いたら、これしかないでしょ?」
「徹夜踊りって、布団出して寝るイベントじゃないのよ!?」
ジャニヤが正確なパンフレットを片手に解説する。
「ここの徹夜踊り、ガチで明け方までやるんだって。途中退出は負け扱いらしいよ」
「誰と戦ってんの!?」
小百合が叫ぶ横で、すでに踊りの輪が始まっていた。
♪ は~ちょいな ちょいな~
「うおっ、早い!これは予習が要るやつだ!」
拓朗が焦ってスマホの“郡上踊りステップ解説動画”を再生しながら回転している。
「やめて!あんた今、動画と実際の踊りで二重に回ってる!」
はづきが手を差し伸べるも、すでに遅し。拓朗、ぐるぐるからのズテーン。
その隣で、啓がすでに完璧なステップを踏んでいた。
「えっ、覚えてたの?」
「……聞いたらだいたい分かる」
「何その“耳コピ系ダンサー”みたいな才能!」
一方、輪の中心にいたのが――一祥。
法被に身を包み、鳴子を片手に踊るその姿は、見る者すべてに“熱意”を伝える。
「うぉ……あの人、“踊る前に論文書いてそう”ってぐらい真面目そう……」
小百合がポツリとつぶやいた。
そしてその真面目ダンサーの視線が、なぜか雄大へと向けられた。
「……踊りとは、魂の表現。寝巻きで参加する者に、その覚悟があるかどうか――見せてもらおうか」
「戦闘開始!?」
「――見せてもらおうか、寝巻きの踊り魂を」
一祥のその言葉と同時に、笛と太鼓のリズムが加速した。
ざわめく会場。盆踊りとは思えないほどの緊張感が漂う中――
「よーし!いっちょ、魂の徹夜踊りといきますかァァアアア!」
雄大、跳んだ。
跳ぶ必要など一切ないのに、跳んだ。
「ちょ、待って!そのステップ、“郡上節”じゃなくて“ストリートパルクール盆踊り”!!」
美琴の叫びも虚しく、雄大は輪の中央で“完全に自己流の何か”を始めていた。
なぜか一回転してからの腕ブン回し。
観客「おぉ……」
「え、ウケてる……?」
小百合が困惑する横で、ジャニヤが冷静に記録していた。
「“郡上節:夜を舞台にした勇者の迷走”……これは書ける」
一祥がその様子をじっと見ていた。が、怒りはない。
ただ静かに、鳴子を両手に持ち、踊り始めた。
その一歩、その一拍、どれもが見事に音と調和していた。
「……うわ、これは……“正しさの塊”だ」
拓朗がぼそっと呟く。
隣で見ていた啓がぽつり。
「でもな……正しさは、時に孤独なんだよな」
「何言ってんの急にかっこよ!」と全員がざわつく中、雄大の踊りにも変化が。
“暴れる”から“合わせようとする”動きに。
ちょっと不器用。ステップずれてる。でも、ちゃんと目で周囲を見て、他の踊り手にタイミングを合わせようとしている。
そして、ついに一祥と雄大、手拍子が揃った。
「ちょいなー♪ ちょいなー♪」
小さなリズムに、熱気が宿る。
観客から拍手が湧いた。
……踊りとは何か。正しい型か、気持ちか、それとも徹夜か。
その答えは誰も知らない。ただ、夜明け前の郡上の町に、妙な一体感だけが残っていた。
――なお、雄大は翌朝、パジャマのまま寝落ちし、地元新聞に「深夜の精霊」として写真掲載された。
(bon14:End)
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