『中間色の男、どっちつかずで生きてます』
俺の名前は木村尚人、35歳、独身。職業はフリーの校閲ライター。趣味は迷うこと。特技も迷うこと。
人生を一言でまとめるなら、たぶん「中間色」。
その日も、近所のコンビニで立ち止まっていた。
レジに並ぶ前に、アイスコーナーで20分。
チョコか、抹茶か。いや、バニラも捨てがたい。
「……あーもう、チョコミントにしよう。いや、あれは極端か……」
そんな迷いの果てに、結局“氷”を買って帰る。それが俺という男だ。
◆
友人の宏美に言われた。
「尚人って“肌色”でいうなら“中間の肌色”だよね」
「それは褒めてんの?」
「どっちでもないって意味」
ほら、やっぱ褒めてないじゃん。
「中間色って、便利だけど目立たない。誰とでも合わせられるけど、主役にはなれない」
その言葉が地味に刺さって、帰り道ずっと“肌色について”考えていた。
どうしても、肌色にされる俺の人生。納得いかない。
◆
そんなある日、思い切って“はっきりした選択”をしてみようと思った。
テーマは「服」。
買い物に行き、ビビッドな赤いシャツを手に取る。
店員が笑顔で言った。
「お客さま、お肌が“中間のトーン”なので、こういった原色が浮きすぎるかもしれませんねぇ」
「そこでも“中間”!?」
結局、ベージュのパーカーを買った。無難中の無難。
なんならハンガーの方がまだ個性があるんじゃないかという仕上がりだった。
◆
そして訪れた、同窓会。
久々に会うメンツに囲まれて、微妙な会話が繰り返される。
「え? 尚人、今何やってんの?」
「……ライター。でもフリー。あ、でも正社員経験もあるよ。いや、短期だけど。で、いまはフリーに……」
「うん、ようするに“何か書いてる人”ね?」
まとめられた。3秒で雑に。
そして、隣の席の男子が唐突に言う。
「いや〜俺さぁ、はっきり言うとさ、男は攻めるべきだと思うのよ」
「おぉ、なんか言うね〜」
「中間とかさ、ナヨいじゃん。色で言うなら“肌色”って、曖昧で気持ち悪くない?」
…………。
……あーあ、言っちゃったよ。
「……あのさ、“肌色”って、実は一番“使われる色”なんだよ。漫画にも、ポスターにも、広告にも。主張はしないけど、誰かを引き立てる。“背景”に見えるかもしれないけど、“土台”って言ってくれた方が近いよ」
一瞬、会場が静かになる。
「俺は“肌色の人生”だけど、別に不幸じゃない。目立たなくても、ちゃんと生きてるよ」
言ってしまった。汗ばんだ額をぬぐう。
すると、後ろの席で別のやつがつぶやいた。
「……俺も“中間の灰色”タイプだわ」
「俺なんか“ペールオレンジ”ってあだ名だったぞ」
「安心しろ、私は“くすんだグリーン”って言われてた」
次々に名乗り出る、地味な色の同志たち。
同窓会はまさかの“中間色の会”へと変貌した。
最後には、みんなで写真を撮った。テーマは「誰も目立たない集合写真」。
どこか居心地がよく、やけに落ち着いた一枚だった。
◆
その夜、帰り道。コンビニでまたアイスを手にする。
チョコか抹茶か――ではなく。
「よし、今日は“ミルクキャラメルと黒蜜の中間”っぽい、このややこしい色のアイスにしよう」
名前が長い。味はまあまあ。でも、なんか誇らしい。
レジで隣に並んでいた男子高校生が、俺のアイスを見て一言。
「……地味っすね」
俺はニッコリ笑った。
「中間色なんで」
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