ミラーボール、実家に吊る。
「え? 実家のリビングに、何を吊るしたって?」
「だからミラーボールだってば」
私はソファに深く座り込みながら、兄の手からお茶を受け取った母にそう告げた。
母はしばらく黙りこみ、次に発したのは──
「お盆があるからって許されると思わないでよ?」
どういう意味だ。
ことの発端は、一ヶ月前。
推しの解散ライブの余韻に包まれていた私は、うっかり某ネットショップで「本格ミラーボール(吊り下げタイプ・回転機能・リモコン付き)」を購入してしまった。
翌日届いた箱は、炊飯器よりもでかかった。
「このサイズ、賃貸の天井に吊るすの無理じゃね?」
そう気づいた時には遅かった。
返品不可、リモコン付き、そして謎に七色に光る。
床に置くと、なぜか猫が攻撃し始める。
そのとき閃いたのが──
「実家の天井って、なんか強そうだったよな」
翌週。私はミラーボールを手に、帰省した。
「ただいまー!」
「おかえり、手土産は?」
「これだよ!」
「それは……銀のスイカ?」
いや、違う。未来の実家革命装置だ。
「リビングに吊るそう! 家族団らんの新時代!」
「……いやよ。あたし、普通に朝ドラ観たいのよ」
母は全力で拒否。だが私は怯まない。すでにホームセンターで「超・天井用吊り金具セット」も買ってきていた。
「ねぇ、父さんなら理解してくれるって信じてる!」
そして翌日。
「よし、つけるか」
父、ノリノリだった。
翌日。リビングの天井に、ミラーボールが吊るされた。
父が得意のDIY精神を発揮し、絶妙な位置に吊り下げ、回転軸のブレも完璧に調整。
そして夜。
「いっくわよー!!!」
リモコンON!
ぶわぁぁぁっ──!
七色の光が、実家の壁に乱反射。
花柄カーテンがネオンと化し、食卓の味噌汁がクラブ化。
母は箸を止めて、しばし呆然。
「これ、夕飯どころじゃないわよ」
だが、父はサングラスをかけ、クラブミュージックを流しながら言った。
「これが……我が家の新たな夜明けだ」
母:「全然うれしくない!!!」
しかし翌週、思わぬ効果が出た。
ご近所の奥様方が、続々とミラーボール見物に訪れたのだ。
「まあ素敵! うちの主人にも見せたいわ」
「健康器具かと思ったら、ダンスホールだったなんて!」
やがて、週末限定で“ミラーボール茶話会”が開催されるようになり、父が勝手に「実家DISCO」の看板を作った。
名物メニュー:
・ネオンたくあん
・七色寒天ゼリー
・回る麦茶(ターンテーブルに乗せて回して出す)
私は軽く後悔した。
思ってた“家族団らん”とちょっと違う。
「香織、あんたの母さん、ついにキラキラ盆踊り始めたわよ……」
ご近所の中学生からタレコミが入った頃には、実家は完全に“昭和レトロクラブハウス”と化していた。
「これじゃもう、実家でくつろげない……」
と、思った矢先。
「ただいま」
玄関に、弟が帰ってきた。
彼はしばらく、銀色に輝くリビングを見つめ──
「うん、最高。うちの実家ってこうであってほしいって、ずっと思ってた」
キラキラした顔をして見つめていた。
数週間後、母がふとつぶやいた。
「まあ……悪くないかもね。光の中で食べる煮物も、案外イケるわよ」
まさかの、母、順応。
“七色の肉じゃが”を囲みながら、我が家の夜はミラーボールに包まれていく。
もう、普通のリビングには戻れない。
ただ一つ、後悔があるとすれば──
「絶対映え狙ってるだろ」って、全親戚のLINEグループに実家が流されたことくらいである。
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