王様、町内会に降臨す。
「本日をもって、余はこの町内の王となる!」
その日、朝の町内放送がいつもと違った。
録音ではなく、生声。そしてその主は、金ピカの王冠にマント姿、足元はつっかけという奇妙な男──町内の伝説的人物・大浦誠一郎(68歳・無職)であった。
「余は、王である」
何が彼をそうさせたかは不明。
一説には、BSの海外ドラマ『中世王国の栄光』の再放送を夜通し観て、影響を受けたとも言われている。
とにかく、翌朝から町内は「王政」に移行した。
■第一法:「あいさつは臣下らしく、深々とお辞儀すること」
■第二法:「王の通行時は赤い絨毯を敷くこと(足が冷えるため)」
■第三法:「毎日3時に“王への忠誠体操”を踊ること」
住民は呆れつつも、なぜか従った。
というのも──
「これ、王様になってから、妙にごみ出しルールが守られてるんですよね」
「うちの子、ゲームより“忠誠体操”のほうに夢中で」
「高齢者の徘徊が、王のパトロールになってて助かるわあ」
王政、案外役立っていたのだ。
しかも、大浦さん──もとい「王」は、意外と町に尽くした。
毎朝、王宮(町内会館)前の花壇に水をやり、郵便受けから落ちたチラシを拾い、迷子の猫を“王の警備兵”として保護した。
ある日、町内の小学生・ヒロトが言った。
「俺も王様になりたい!」
すると王は言った。
「ふむ、それはよい志であるな。では“王位継承試験”を設けよう」
こうして、第一回「王位後継者試験」が開催される。
内容は以下の通り:
『忠誠体操』のリズム感チェック
『ごみ出しルール四択クイズ』
『住民投票(かわいいねと思うか)』
ヒロトは善戦した。が、惜しくも「第3項目の住民投票」でおばあちゃん票が割れた。
「うーん、かわいいけど、“王の器”かって言われるとねぇ」
王位は保留となった。
だが、この“王様イベント”が、町内の新たな楽しみとして定着することになる。
毎月開催される「王様の宴」では、住民が持ち寄ったお菓子を王が試食し、優秀なお菓子は“王印”のシールを授けられる。
「王様の認定スイーツってだけで、孫がめちゃくちゃ食べてくれるんです」
「うちは“王印きんつば”で売り上げ爆上がりだわ」
やがて、町内会は観光客まで呼び込むようになり、「王の町内まつり」は地方ニュースにも取り上げられた。
しかし、すべての物語には転機がある。
「……王、定年の時が来たようです」
町内最年長だった大浦王、ついに足をくじく。しかも原因は忠誠体操のキメポーズ。
「ワシもな……もう、フルスピンは無理じゃったか……」
町内会館はしんみり。だが王は、最後にこう言った。
「次なる王は……住民全員じゃ!」
全員、ぽかん。
「王とは何か? 余はそれをずっと考えていた。結論はこうじゃ──“人を思いやる者”こそ、王にふさわしい」
「だからこの町に住む者、みな王じゃ。ごみ拾いする者も、体操する者も、猫に優しい者も──みんな、王」
町民が、泣いた。
──次の日から「王冠貸し出し制度」が始まり、住民たちは交代で“王”を務めるようになる。
スーパーでレジをした老人には「パート王」、バス停で荷物を持ってあげた青年には「助け王」、公園で花に水をやった少年には「花王(はなおう)」の称号が与えられた。
かつての「王」は、今もベンチに座って町を見守っている。
──その肩には、王の警備兵・猫の「チャトラ」が、今日も誇らしげに鎮座している。
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