『祖母の遺品と、なぜか玄関に刺さった鍵』
ある朝、大学生の佐藤晴人は、自宅の玄関前で混乱していた。
なぜなら、ドアに――“見たことのない古びた鍵”が、刺さったままになっていたからだ。
「……は? 俺、鍵なんて……しかもこれ、うちの鍵じゃないし!」
ギザギザの形も、色も、材質も、明らかに時代遅れ。下手すると“戦前”くらいの空気を醸していた。
とりあえず部屋に入り、鍵を抜いてからテーブルに置くと、同居人の叔父・ヨシノリがのっそり起きてきた。
「おう。おまえ今日、なんか変なもん持って帰ってきてなかったか?」
「いや、逆に変なのが玄関に刺さってたんだけど!」
見せると、ヨシノリは「あっ」と間抜けな声を上げた。
「あー、それな、たぶんウチのおばあちゃんのやつ」
「え? 曾祖母さんの?」
「そう。去年亡くなった時、遺品整理で出てきた謎鍵。オレも何の鍵かわかんなくて、酔っ払ってたときに“差してみっか”ってやったら、刺さったのよ。で、忘れた」
「そんな軽いノリで異世界開きそうな鍵を玄関に刺すなよ!!」
晴人は思わず立ち上がり、やたら鈍く光る鍵を凝視した。
……確かに、どこか不気味だ。細工がやたら凝ってる。鍵の先端に“タヌキ”の刻印があるのも、謎。
「なんか、試しに回したら“ガチャッ”て言ったんだよな」
「回したの!? 玄関、ふつうのシリンダー錠だよ!?」
「それが、なぜか回ったんだよ。不思議だよな〜」
「いや、不思議じゃなくて、怖いの!」
そこで、ピンポーンとチャイムが鳴った。
ドアを開けると、そこには謎のスーツ男が立っていた。背が高く、黒いサングラス。片手には銀色のアタッシュケース。
「……失礼、こちら“鍵”をご使用になりましたか?」
「えっ!? な、何者ですか!?」
「“カギ省(しょう)・異界防止対策局”の者です」
「……何その省庁!? 聞いたことないぞ!」
「国には“絶対に開けてはいけない扉”というのがありまして。そちら、先祖代々の保管義務がある鍵を――勝手に使われましたね?」
「叔父さんーーーー!!」
「え、やべ、俺ちょっと出かけるわ。昼メシ買ってくるわ。サヨナラ!」
逃げた。おじさん、全力ダッシュで逃げた。
スーツ男は溜息をつく。
「では、こちらの“鍵使用報告書”にサインを。あっ、罰金として、タヌキまんじゅう24個分いただきます」
「え、金額とかじゃないの!?」
「単位は“和風”。いま流通してるのは“まんじゅう”ベースです」
――話がまったく見えない。
結局、晴人は「使用者未遂」扱いで済み、アタッシュケースの中から本当に“タヌキの焼き印入りまんじゅう”を受け取った。
そして、封筒に書かれた注意書き。
この鍵を再び使うと、昭和19年の“狸防衛会議”が再生されます。
くれぐれも、回さぬよう。
「いや、なにそれ……狸の国家機密……?」
しばらくして、玄関の鍵は交換された。タヌキ印の鍵は、政府の秘密ボックスに預けられたという。
だが、その後も晴人の部屋には、時々“なぞの手紙”が届く。
たとえば、
拝啓 タヌキの通訳になってください
または、通訳できる人を紹介してください(急募)
橋の下にいるカッパの“内通者”を追っています。心当たりがあればご連絡を。
あなたの夢に出てくる階段は、実在します。
全部、送り主の名前が「鍵省 タ行担当:キリタニ」となっていた。
そして晴人は思った。
――やっぱり、あのとき鍵を刺したの、俺じゃなくて叔父だけど……巻き込まれてる気しかしない!!
今朝の夢には、狸が出てきて言っていた。
「キミ、合格! 次は“扉の先”の面接な!」
……玄関で鍵を拾っただけなのに、なぜか人生のステージが変わりかけている気がして、
晴人は今日も、悩みながら朝ごはんのタヌキまんじゅうを食べるのだった。
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