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第34話 吉祥寺駅の駅神様

  中央線・総武線・京王井の頭線が集まり、駅前には商店街と大型デパート、そして井の頭公園が広がる。休日には「住みたい街ランキング」常連の名に恥じぬほどの人出でにぎわう吉祥寺駅。
 この駅を守る駅神様は、まるでカフェ店員のような若者だ。エプロン姿でコーヒーポットを片手に持ち、口癖は「まぁまぁ落ち着いて」。ただし性格はツッコミ気質で、人の流れを見ては思わず声をあげてしまう。
「はいはい、そこのカップル! 井の頭公園でボート乗るなら、別れないように気ぃつけて! “別れるジンクス”って毎年どれだけ量産されとんねん!」
 神様の声は人には聞こえないが、その直後、カップルのスマホが通知を震わせる。「カップルボート注意」のネット記事がたまたま表示され、二人は顔を見合わせて「やめとく?」と笑う。
「よし、一組セーフ。別れるのは駅のせいじゃないからな!」
 午前中、改札前では観光客の一団が「サンロードはどっち? ハーモニカ横丁?」と右往左往していた。神様はコーヒーポットをひょいと傾ける。すると偶然、呼び込みの店員が「こちらサンロード入口です!」と声を張る。観光客は歓声をあげて歩き出す。
「ふぅ、今日も一件落着。カフェオレ一杯ぶんの労力やな」
 昼になると、駅前のハーモニカ横丁は大賑わい。サラリーマンが「ランチに餃子か焼き鳥か……」と迷っている。神様はため息をつき、ポットの蓋をカチカチ鳴らす。すると、真横の席から「ここの焼き鳥、最高だよ」と声が聞こえ、サラリーマンは即決。
「人の迷いは口コミで解決や!」
 午後、井の頭公園へ向かう親子連れが改札を抜けていった。子どもが「リス園行きたい!」と駄々をこねる。神様は苦笑しながらポットをくるりと回す。すると偶然、リスのイラストが描かれた観光案内板が目に入り、親は「行ってみる?」と笑顔になる。子どもは大喜びで飛び跳ねた。
「ほら見ろ、吉祥寺はリスとも縁深い街やからな」
 夕方になると、帰宅ラッシュで中央線のホームはぎゅうぎゅう詰め。サラリーマンが「快速と特快どっちだ!?」と大慌て。神様はコーヒーポットを掲げて、思わず叫ぶ。
「特快は三鷹止まりや! 落ち着けー!」
 もちろん人には聞こえないが、その瞬間、ホームのアナウンスがちょうど「本日特快は三鷹行き」と告げ、サラリーマンは「危なっ」と笑って各駅停車に乗り込んだ。
「よし、正しいカフェイン効果や!」
 夜、駅前の商店街に灯りがともり、人々が家路につく。神様は梁に腰かけ、ポットを胸に抱えながらつぶやいた。
「吉祥寺ってさ、“なんでもある街”なんだよな。おしゃれも下町も、公園も居酒屋も。……だからこそ、みんなここに戻ってきたくなるんやろ」
 そう言ってポットを傾けると、香ばしい匂いがふわりと広がる。人には届かないはずなのに、改札を抜けていく人々の顔に、どこか柔らかな笑みが浮かんでいた。


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