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『謎の緑の丸、町内会を制す』

 ある平凡な土曜日の朝、
 とある住宅街に突如貼り出された一枚の紙が、町を混乱に陥れた。

 掲示板に踊る文字。

【緊急告知】
《緑の丸》が貼られていた家は、午後1時に町内会館に集合。
 詳細は口外無用。
 町内会より

「……は?」

 老若男女、立ち尽くす。

「うち、貼られてたんだけど!?」
「うちも!何これ、除草剤のマーク?」
「え?うちは緑の四角だったけど……除外?」
「緑の丸の意味を教えて!!!」
「それより“詳細は口外無用”って怖すぎない!?」

 誰も内容を知らないのに、誰もが気になる。
 だが確かに町内のいたるところに――直径30センチほどの緑のシールが貼られていた。

 門柱、ポスト、愛犬の服(←なぜ)。

 町は、パニックになった。

 

 * * *

 午後1時。町内会館。

「貼られてた人、全員集合してください〜!」

 その声に導かれて集まったのは、主婦、サラリーマン、フリーター、あと犬(服に貼られていた)など30人ほど。

 その中心に、町内会長・東野満(65)がいた。

「さて……皆さん。今日、なぜ集められたか分かりますか?」

「え、緑の丸の意味を……」

「それは……」

 会長がゆっくり立ち上がる。
 腕には、堂々と緑の丸の腕章。

「――町内会、次期副会長をこの中から決めたいからです」

「……は???」

 

 * * *

「副会長の条件、それは“謎に巻き込まれても逃げない度胸”です」

「意味が分からないよ!」

 主婦の小林さんが叫ぶ。

「なにその基準!?貼られた家=巻き込まれてOK判定なの!?」

「そうです」

「即答!?」

「ちなみにこの“緑の丸”は、町内会の投票によるランダム抽選で決まりました」

「民主主義の暴力だ!」

「候補者は今日このあと、“三番勝負”で勝敗を決します」

「町内会って、そんなに攻めの組織だったっけ!?」

 

 * * *

【第一の勝負:グリーンの心得テスト】

 全員に配られたのは、緑色の野菜一覧。
「これは何の葉っぱでしょう?」
「モロヘイヤ」「空芯菜」「パセリ」「ツルムラサキ」……

「え、何このテスト!?」

「葉っぱで人選ぶなよ!」

「俺、ネギしかわかんない!」

「ネギも分かるの!?」

 

 * * *

【第二の勝負:緑モノまねバトル】

「次は“緑のもの”のモノマネをしてください!」

「無茶だろ!」

「僕ピーマンやります」

「ピーマンの何をどう!?(でもちょっと見たい)」

 隣では、緑色のカエルの全力の跳躍。
 その隣では、抹茶アイスの擬人化(女子高生風)。

 もう誰にも止められない。

 

 * * *

【第三の勝負:緑の主張プレゼン】

「あなたにとって“緑”とは?」

 そう問われて壇上に立ったのは、
 眼鏡をかけた地味な青年・佐川トオル。

 誰もが注目する中、彼は言った。

「僕は……緑を見ると、安心します。信号もそうだし、植物もそうだし……」

「……」

「誰も見てなくても、緑はそこにある。目立たないけど、そこにある。僕も、そういう人間になりたい」

「……」

 静まり返る会場。

 だが――

「今の、良かったわ!私、泣いた!」

「緑の安心感って、たしかに……」

「うちの芝生、急に好きになってきた……」

 突如、感動の渦。

 それまで“ピーマン役”や“カエルモノマネ”でふざけていた人たちが、全員、佐川を讃え始めた。

 そして――

 

「次期副会長は……佐川トオルさんに決定です!」

「やったーーーー!!!」(何もしてないのに)

 

 * * *

 こうして、緑の丸に選ばれた男は、町内会を支配……いや、補佐することになった。

 だが後日、佐川がこっそり会長に訊いた。

「会長……あの、そもそも“緑の丸”って何だったんですか?」

「あれ?あぁ、あれは……」

「え?」

「ワシがネットで買った“虫よけシール”だよ。貼ったまま忘れとった」

「え、ええええぇぇ!!?」

 

 * * *

【後日談】

“緑の丸”の騒動がニュースで紹介され、
 町内会はなぜか“地域活性のモデルケース”として表彰された。

 副会長・佐川のプレゼン「緑のある暮らし」は、いまや全国の小学校で副教材になっている。

 ちなみに、犬に貼られたシールのせいで毛が抜けた件については、町内会が全力で謝罪した。

 平和な町の、ちょっとだけシュールな土曜日の出来事である。


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