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【bon04:島根安来節とどじょうの逆襲】

「……なんで僕が、鼻に豆を詰められてるんですかね?」
 拓朗が涙目でつぶやく。
「いや、安来節って言えば、どじょうすくいじゃん。どじょうすくいって言えば、変顔と豆と尻! 俺の中では常識!」
 満面の笑みで答えたのはもちろん、雄大。
「あなたの常識は……いつも世間と90度ズレてるのよ!」
 美琴がスリッパで雄大の後頭部をパーンと叩く。すでに彼女は、地元の土産物店で“公式どじょうすくい面”を3枚買わされていた。
 舞台は島根県安来市――
「正直、今までで一番“不穏”なスタートじゃない?」
 小百合が顔をしかめながら、竹かごの中のどじょうをのぞき込む。
「この子たち、本当に踊るために来たのかな……」
「たぶん俺らより目的が明確だと思うよ」
 啓がどじょうの泳ぎ方を見ながらつぶやく。
「一匹、明らかに俺のこと煽ってない?」
 ジャニヤが目を細め、じっとどじょうとにらみ合っている。が、どじょうの方が明らかに目つきが鋭い。
「はいはーい! それではどじょうすくい選手権、飛び入りチーム“謎の旅団”のみなさん、スタートです!」
 主催のおばちゃんの掛け声とともに、即席のステージへと引きずられる一行。
「なんで出ることになってるの!?」
 美琴が声を上げるが、すでに雄大が面を装着して構えていた。
「任せろ! 俺のすくいは、リスペクト100パーセントだ!」
「リスペクトって、すくう力じゃないのに!」
 会場は町内会主催の夏祭り。手作り感満載の屋台が並び、子どもたちが「踊れー!」と叫んでいる。
 そして、例によって――
「どじょ~じょ~じょ~♪」
 始まった。三味線の音に乗って、雄大が前に出る。腰を低く、体を揺らし、顔は――
「どじょうが逃げてる!」
 ケイデンが叫ぶ。
「逃げてるというか、完全に反撃してる! あのどじょう、跳ねた!」
 小百合が指差した先では、雄大の額にどじょうが直撃。完全にダウンしていた。
「うわあ……これはもう、どじょうの勝ちだね」
 啓が勝敗を読み上げると、観客から拍手と笑いが巻き起こる。
「もうやめて! どじょうのHPはとっくにゼロよ!」
 美琴が叫ぶ一方、どじょうは水槽の中でスッと泳ぎ、明らかにガッツポーズをしているようだった。
 ――そして場は混沌と化した。
「ほら、美琴さん! 次はあなたの番よ!」
「無理よ! 私、曲げられないのよ膝が!」
 小百合に背中を押されてステージに出された美琴。もう逃げ場はなかった。
 しかも、客席から子どもたちの大合唱。
「変顔してー!」
「ちゃんとお面かぶってー!」
「しゃがんでー!」
「膝を犠牲にしてー!」
「……誰が犠牲になるかァァァァ!」
 美琴、決起。彼女はついに覚悟を決めた。
 白い手ぬぐい、どじょうすくい面、しゃがみの姿勢――
 そして。
「よいしょーッ!」
 完璧だった。構え、間、腰のキレ、すくいの角度。小学生の女の子が「プロじゃん」とつぶやくほどのキレだった。
 ……ただし、表情は、仮面の奥で限界のストレスが煮えたぎっていた。
「……無言の怒りがすごい」
 ジャニヤが小声でつぶやくと、啓がコクリと頷く。
「でも、これがたぶん、リスペクトってやつだよな……」
 観客の拍手は止まらない。町内のおじいちゃんが「うまかった!」「よくやった!」と号泣していた。なぜか地元のFM局にまでインタビューされそうになり、美琴はスカートを握りしめて逃げ出した。
 一方その頃、拓朗とケイデンは“どじょうすくい面 反射神経チャレンジ”という謎の競技に参加させられていた。
「逃げるどじょうを制す者、それすなわち島根の勇!」
「いや、これ完全に……ただの体力測定だろ!?」
 どじょう、跳ねる。拓朗、追う。ケイデン、冷静にネットで囲い込む。どじょう、謎の二段ジャンプ。
「ファンタジーかこれは!」
「もしかしてこのどじょう……勇者の素質があるのでは?」
 小百合が本気で考え込み、ジャニヤは屋台の焼きイカを食べながら「これはもうどじょう主役でいいんじゃない?」と呟いた。
 そして日が暮れ、盆踊りの輪ができる頃――
 安来節のゆったりした調子に合わせて、メンバーは静かに輪の中に入った。
 誰もしゃべらない。ただ、手を動かし、足を運び、腰を低く構える。さっきのどたばたが嘘のように、そこにいたのは“旅人”ではなく“踊り手”だった。
 誰が一番うまいかなんて関係ない。ただ、ちゃんとそこに混ざって、輪の流れを乱さず、笑って、すくって。
 それが、安来のリズムだった。
 ――なお、雄大だけはまたどじょうに跳ねられて転んでいた。
(bon04:End)


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