【bon46:富山県_越中おわら節と“沈黙のパッション”】
富山県・八尾。
霧がゆっくりと山肌をなぞり、町が墨絵のように霞んでいた。
小雨が提灯の明かりを濡らし、どこからか笛の音がかすかに聞こえる。
「静かだね……」
小百合がつぶやくと、拓朗が小声で言った。
「誰か泣いてんのかと思ったら、三味線だった。怖ぇよ、情緒」
提灯の下に立っていたのは、地元の青年団だった。
彼らは無言で一礼し、音もなくすっと踊りの輪を広げる。
無駄な言葉がない。すべては型と所作に込められていた。
その光景を見て、詩人・啓が突然しゃがみこんだ。
「……俺、無理。興味なかったのに……いま、興味湧いちゃった……」
「どしたの急に! え、そんな心の開き方ある!?」
美琴が驚くが、彼の目は真剣だった。
「“無理に伝えない美しさ”って……あるんだな。
これは……“言葉をやめた詩”だ」
その頃、前方では雄大がしれっと踊りに参加していた。
が、動きが荒い。リズムが勇者。
「いや、それは剣を振る型や! “間合い”を取るな! “余白”を見ろ!」
誰もツッコまない。
けれどその静寂が、逆に説教より強い圧になっていた。
雄大、しゅん。
雄大の乱れたステップを見て、万衣那が一歩前に出た。
「落ち着いて。判断力が鈍ってる時は、風の音を聴いて」
――まさかの、風任せコーチング。
けれど、その言葉に雄大はハッとする。
「風……あ、吹いてるわ」
今さら気づいたように背筋を伸ばし、静かに目を閉じた。
すると不思議なことに――動きが、滑らかになっていく。
「嘘やろ……自然のリズムにチューニングしとる……」
拓朗が驚いたが、それ以上に驚いたのは邦広だった。
「オレ、感情的になるといつも踊りがガタガタになるんだけど、
……今の雄大、すげぇ“無”になってる……」
佑貴は黙ってうなずき、遠巻きから彼の踊りを見つめる。
やがて全員が輪の中に入り――
音も少なく、笑いもなく、それでも愉しさがじんわり伝わる空間ができていた。
提灯の明かりの下、啓がぽつりと語る。
「これが“越中おわら節”……声を上げなくても、伝わるものがあるって……ずるいよな」
その横で、はづきが微笑む。
「伝わってるって気づいた時、もう一人じゃないって思えるの。
たぶん、この踊りは……“孤独の境界線”を消すものなんだよ」
気づけば、全員が口数少なく、でも深く頷いていた。
哀愁の旋律は、ただ静かに魂を撫でる。
それを、誰も“言葉”にする必要なんてなかった。
(bon46:End)
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