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第61巻 岐阜市:ギフノカミの願い

「願いを叶えてほしい? うむ、それでは……まず、和紙の選定からだな」

 

 ここは岐阜市。山々に囲まれ、職人たちの手技が生きる街。
 その中で静かに暮らすのが、ギフノカミ。
 落ち着きがあり、丁寧で、なにより頑固……いや、職人気質そのものの神様だ。

 

 ある日、ギフノカミの元を訪れたのは、市内の高校に通う男子生徒・大翔だった。

「就職の面接、うまくいくように願ってくれませんか」

 ふむ、とギフノカミは顎を撫でた。

「まずは、話し方の稽古じゃ。――早口では、相手に“言葉”が届かぬ」

 

 そこから始まったのは、願いを叶えるどころか、なぜか“面接道場”。

 しかも会場は、なぜか和傘の工房である。

「……なぜ傘を作ってるんですか?」

「傘とは“言葉を包む器”なのだ。骨を知り、布を知れば、人の会話も整う」

「そんな理屈あります!?」

 

 ギフノカミは一本の竹骨を掲げた。

「たとえば、志望動機。これが“傘の芯”じゃ。ここがブレると、全てが歪む」

 指をぱちんと鳴らすと、竹がしなる。

「続いて、自己紹介。これは“傘の布地”。柄が派手すぎると嘘くさく、地味すぎると印象に残らん」

「えっ、俺、面接受けるだけのはずなのに、なんか弟子みたいに……」

 

 一週間後、大翔の声は滑らかになり、姿勢もシャキッと変わっていた。

「自分でも驚いてます。なぜか……面接が怖くないんです」

「うむ。それでこそ“骨が通った”というものじゃ」

 

 そして面接本番。

「あなたの強みは何ですか?」

 大翔は深呼吸し、一言。

「……雨の日でも、折れずに差せる傘のような人間です!」

 面接官たちは一瞬驚き、それからゆっくり笑った。

 

 面接後、大翔はギフノカミの元へ向かった。

「受かりました!第一志望の旅館、仲居見習いとして!」

 ギフノカミは、和傘を一本、静かに差し出した。

「この傘を、持ってゆけ。客人の雨を受け、その心を守る者になれ」

「ありがとうございます。でも……この傘、開かないです」

「それはな、“飾り傘”じゃからな。開かんよ」

「……えぇ……」

 

 その日、ギフノカミは工房に戻って、新たな和傘作りに取りかかった。

 次の依頼者が現れる前に、傘の在庫を増やしておかねばならぬ。願いが来るたびに一本必要になるのだ。

 なぜならギフノカミは、「願いを叶えるには、まず形をつくる」主義だからである。

 

 そんなギフノカミに、今度は別の訪問者。

 市役所で働く女性職員、奈緒が頭を下げた。

「町の魅力を発信する動画を作るんですが……正直、地味で……どうにかインパクトが欲しくて……」

「ならば、和傘ダンスじゃ」

「……は?」

「和傘をこう、くるくる回して、回して、軽快な音頭とともに踊るのじゃ」

 

 こうして、市役所主導での「和傘PR盆踊り大作戦」が始動した。

 ――が、当然ながら誰も踊れない。

「傘ってこんなに重いの!?」

「くるくる回すどころか、腕がプルプルするんですが……」

 

 だがギフノカミは真剣そのもの。

「和傘とは、岐阜の魂。回すたび、願いの風が吹く」

 全くロジックが通っていないが、なんとなく納得させるだけのオーラがあった。

 

 動画公開日。画面には、謎の音頭に合わせて、全力で傘を振り回す職員たちの姿が――。

 結果、「逆に面白い」とSNSで話題になり、思わぬ拡散へ。

 

 奈緒が礼を言いに来ると、ギフノカミはまた一本、傘を差し出した。

「これは、見てくれる人の“心の雨”を受ける傘じゃ」

「……もう、ギフノカミさん、傘ばっかり作ってないで、ちょっとだけ働いてくださいよ」

「……うむ、それもまた、ひとつの願い、かのう」


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