『ロバと婚活とファンタジー』
「えー……と、本日の見合い相手は……ロバ、ですか?」
「はhttps://note.com/goldness/n/n913c7106a77bい、間違いなくロバですね。性格:温厚。職業:荷物運び。趣味:砂浴び。特技:鳴き声です」
「いやいやいやいや!どんな婚活イベントなんですか!?」
僕は今、都内某所の“婚活テーマパーク”にいる。
本気で結婚を考え始めた矢先、親戚の伯母さんが「絶対当たるから!」と勧めてきた、謎の婚活サービスに申し込んだのが運の尽きだった。朝集合した参加者たちは全員目隠しをされ、気づけばここにいた。
テーマは「運命は、姿形を超えて」。
要は、“見た目に騙されるな”的なコンセプトらしいが、それにしても、目の前にロバがいるとはどういうことだ。
ロバ(仮名:マリー)は静かに、僕の顔を見つめていた。優しげな瞳。大きな耳。そして、なぜか胸元には可愛らしいリボンがついている。
スタッフがにこやかに説明を続ける。
「この“マリーさん”は、人間界における多様性の象徴であり、伴侶に求める条件を見直すための“触媒”として配置されています。お気軽に、お茶などいかがですか?」
「いや、触媒って……」
僕は途方に暮れながらも、マリーとの“仮見合い”を始めることになった。
──一応、言葉は通じないが、妙に空気を読むタイプらしい。
お茶を勧めると、うなずいた気がするし、僕の身の上話にもしっかりと耳を傾けていた(物理的に耳がでかい)。
「……それでさ、大学時代の彼女に振られたのがトラウマで……あ、聞いてる? マリー?」
マリーはそっと鼻先で僕のシャツの袖を引っ張った。優しい、慰めのしぐさだった。
「……なにこれ、やばい。人間より癒される……」
気がつけば、僕は心を許しはじめていた。
「いや、ないだろ」と思う反面、「でもこの“安定感”はすごい」と感じてしまう自分もいた。
そうこうしているうちに、周囲の様子もだいぶ混沌としてきた。
隣のブースでは、OL風の女性がペンギンと目を合わせて真剣にうなずいていたし、反対側ではカンガルーとおじさんがスパーリングしていた。
「多様性って、つまり動物園だったんですね……」
そして運命の“最終選択”タイム。
参加者は、「最も心が通じた相手」を選ぶシステムになっていた。マリーの隣には、他のロバも並んでいた。正直、顔の区別がつかない。だが僕は、確信を持ってマリーを指差した。
「このロバです。マリーが、僕の運命の相手です」
その瞬間、場内がざわめいた。
そして突如、マリーがしゃべり出したのだ。
「お見事です。あなたは、愛の真価を見抜きました」
「しゃべったああああ!!?」
マリーはしれっと続ける。
「私は魔女に呪われていた“エルミナ王国の王女”で、見た目がロバに変えられていたのです。見た目ではなく心で選んでくれる者だけが、呪いを解けるのです」
「その設定、もう令和では許されないレベルの乙女ゲーム感!!」
次の瞬間、光があふれ、マリーは――本当に人間の女性に変わった。
しかも、めちゃくちゃ美人だった。
「いやいやいやいや、そんなわけ……って、うわマジだ!」
スタッフが拍手する中、彼女は僕の手を取って微笑んだ。
「あなたのような人がいたから、私も信じることができたのです」
「え、これマジで婚活成功ルートなんです?」
その後、僕らは本当に交際を始めることになった。
“ロバ期”の記憶があるからこそ、彼女は非常に慎ましやかで、感情表現も豊かだった。
ただし、ひとつだけ難点がある。
「今でも機嫌が悪くなると、たまに“ヒヒーン!”って鳴くんだよな……」
「聞こえてるわよ、それ。あと、それ“怒りの鼻鳴らし”って呼ばれてるから」
こうして、僕の婚活はまさかの“ロバからの逆転劇”で幕を閉じた。
人生、何があるかわからない。
だからこそ、迷ったら一歩踏み出す。たとえそれが、蹄の音に導かれる道でも。
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