第84巻 四日市市:ヨッカイチノカミの願い
三重県四日市市。
工業地帯が広がるこの街には、やたらと熱血でせっかちな神様が住んでいる。
名前はヨッカイチノカミ。
願いを叶える時は、とにかく速く、力強く、そして雑であることから、地元では“ご利益爆速系”として恐れられている。
ある日、四日市の高校に通う蒼大は、廃工場跡で落ちていた「願いBOX(と書かれた段ボール)」を拾った。
「なんだこれ……“願い事は一個まで”って書いてあるけど、こんなん信じるやついんの?」
といいつつ、蒼大はシャープペンを取り出して、適当に書いた。
「ちょっとでいいから、人生に勢いついてほしい」
紙を投げ入れた瞬間。
「うおおおおおおおお!!!」
突然、耳元に大声が響いた。
「早っ!? え、誰!?」
振り返ると、ヘルメットをかぶった神様らしき男が立っていた。
作業服の背中には「神」の刺繍。安全帯も完備。しかも光っている。
「ヨッカイチノカミだ! 願い、叶えた!」
「いや早いな!? 読んだ!? 今読んだ!?」
「もう勢いつけたぞ!」
「どうやって!?」
「君のスマホ、いま“工場萌えSNS”でバズってる!」
「えっ」
蒼大が撮りためていた、工場の夜景写真が――
なぜか神の手によりAI補正で発光し、“神々しい配管美”という謎タグ付きで拡散されていた。
フォロワー、爆増。
次の日から蒼大の学校生活は一変する。
・急に写真部の顧問から部長就任をお願いされる
・地元の工場から「撮りに来ていいよ」と招待DM
・テレビ局から「工場美少年」として取材オファー
「なんで!? 勢いってそういうこと!? なんで神様、俺の写真知ってたの!?」
「読んだ! 全部読んだ! Googleフォトもクラウドも!」
「やめてぇぇぇ!」
その後も、神の“勢い”は止まらない。
蒼大が「少しだけ筋肉つけたい」とつぶやいたら、
翌朝には工業地帯の鉄パイプで自作されたダンベルが玄関前に。
昼に「勉強も勢いつけなきゃ」と言ったら、
夕方には謎のオンライン講座から一斉に登録メールが届いた(しかも全部“速読”系)。
夜に「恋愛も勢いつけたい」などと調子に乗ったら、
隣町の学校の文化祭で女子高生に囲まれ、なぜか“工場王子”と命名されていた。
「神様! このままだと俺、燃え尽きます!!」
「よし、それも勢いで回避!」
「どうやって!!」
「強制早寝早起きモード、発動!!」
その日から蒼大の目覚まし時計は、朝5時にスピーカーから神の声が爆音で鳴る仕様となった。
「うおおお! 勢いの朝だーーー!!!」
「ねむいよおおおお!!」
結果的に蒼大は、
・四日市の観光PRポスターに登場し、
・工場をテーマにした写真展で入賞し、
・健康的な生活習慣を手に入れ、
・神様の早口にも耐えられる耳を得た。
だが、願いをひとことにまとめるなら――
「勢いが、……ちょっと過ぎた」
今日も四日市の空に、どこかで響く爆速の掛け声。
「願いあったら言えよォォォォ!! いますぐ叶えるからなァァァァ!!」
そんな熱血神様の声に、
誰かがそっと耳をふさいだ。
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