🪛ドライバー一本で生きていく男🪛
「……で、どこが壊れてるって?」
「えっと……プリンターの“心”ですかね」
「よし、ドライバーで直そう」
「無理だよ!! 精神面には効かないって!!」
彼の名は前田鉄夫。
42歳。職場の備品管理兼なんでも修理係──
だけど周囲からはこう呼ばれている。
「ドライバーおじさん」
理由は明確。彼のポケットには、常にドライバーが6本刺さっているから。
「いや本数どうした!? 鞄じゃなくて体に工具ささってる人、現実で見たことない!」
「回せないネジなど、この世に存在しない(ドヤ)」
「いや、謎の名言出すなよ!!」
社内にあるほとんどのもの──
ガタついた椅子
ギシギシ言うドア
動かないレバー
ネジ一本脱走したホワイトボード
全部、彼のドライバーで“シャキッ”と直る。
「マジで、ドライバー振るとオーラ出てる」
「もはや、ネジ界の祈祷師……!」
しかし、ある日事件が起きた。
新人の田辺が、ノートパソコンを派手に落とす。
「終わった……俺の新人ライフ、2週間で幕……」
慌てて現れる前田。
「よし、見せろ」
「えっ、ドライバーで何するつもりですか?」
「直す。それが俺の存在理由」
5分後。
「よし、動いた」
「えっ!? 動いた!? なんで!?」
「ネジのゆるみと心の緩みは、だいたい同じ場所に出るんだよ」
「また名言っぽいこと言ってるけど、ちょっと泣きそう……!」
その日から、新人の間で彼は“DIY神”と崇められるように。
他部署からも修理依頼が殺到。
社員証よりもドライバーが先に出される日々。
「てつおさんがネジ回すと、人間関係もなぜか緩まるんだよな……」
「ネジの神、いつもありがとう……!」
でも、彼にも“直せなかったもの”があった。
それは──
「上司の離婚危機」
相談を受けたとき、彼は静かに言った。
「そればっかりは……ドライバーじゃどうにもならん……」
「初めて聞いた、敗北宣言……!」
でも彼は言葉を続けた。
「……ただな、ネジは一度外しても、また締めれば効くんだよ。
逆回転にも、意味はある」
──その後、上司は家庭円満に戻った。なぜか。
「いやもう、それドライバーの効果じゃなくて“お前の人間力”だろ!!」
最近では、彼の名刺にこう刻まれている。
「ネジも心も、回し続ける係」
「ふざけてるようで、実務超有能!!」
そして今日もまた、彼は静かに現れ、ぽつりと言う。
「このネジ、昨日より少し、優しくなったな」
「うわ、ネジに情緒感じてる!!」
「長くつきあうと、わかるんだよ」
たぶん、人生には“回せること”と“回せないこと”がある。
だけど、ちょっとでも「締め直せる」なら──
ドライバー一本、持ってる意味はあるかもしれない。
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