七不思議、ほぼ全部「いい話」だった件
「放課後、理科準備室の人体模型が毎日ストレッチしてるらしいよ」
そう告げられた瞬間、湊大は教室の端で文庫本を閉じた。気になる。いや、なんならちょっと見たい。
「それ、怖いというより健康志向じゃない?」
と、隣の珠希が笑う。彼女は怪談に目がなくて、夏になると自称“怪談ハンター”として校内をうろつく変わり者だ。
「しかもね、動きがだんだんしなやかになってきてるって噂」
「筋トレかよ……!」
そんなこんなで、その日の放課後、ふたりは理科準備室の扉にそっと耳をあてた。
中から、聞こえる。
「う〜ん、ぐ〜っ……ふぅ、肩がまわるぅ……」
「めっちゃストレッチしてるな」
「私、今の声に癒やされた気がする……」
七不思議その1、理科室の人体模型がストレッチする話――これはただのリラックスタイムだった。
*
「次の怪談いくよ! 校庭の大銀杏の木の下で、毎晩誰かが何かを埋めているらしいの!」
「……それ、普通に菜園なんじゃない?」
その夜、ふたりは校庭で土の音を聞いた。スコップの音。確かに誰かが掘っている。
「出たっ!埋めてる!」
と、珠希が懐中電灯で照らすと――
「……ん?あら、こんばんは。いまラディッシュ植えてるのよ」
家庭科の飯田先生だった。
「深夜菜園!? なんで今!?」
「日焼けしたくないから。収穫できたら家庭科室で漬物にするの」
七不思議その2、深夜の校庭で何かを埋める人の正体――ただの健康志向の先生だった。
*
「じゃあこれは? 音楽室のピアノが夜になるとひとりでに鳴るってやつ!」
「王道すぎて逆に信じられんが……行ってみよう」
夜の音楽室。鍵盤の音が、本当に響いている。誰もいない、なのに――
「……♪ぶんぶんぶん、はちがとぶ〜」
やさしい童謡。
「これ……音楽の先生の自動演奏練習機じゃない?」
「え、それピアノが弾いてるんじゃなくて、音楽室のAIスピーカーが勝手に再生してるの?」
「たぶん先生が居残りの子に向けて設定してるんだと思うよ」
七不思議その3、夜の音楽室の謎の旋律――AIのやさしさが原因だった。
*
「じゃ、これは? 三年の教室の後ろのロッカーから、ときどき泣き声が聞こえるってやつ!」
「怖さと哀しさのハイブリッドきたな……」
しかしふたりがロッカーを開けると、中にいたのは――
「……英単語……覚えられない……」
頭を抱える三年の瀬尾先輩だった。
「先輩、ロッカーで勉強してたんですか……?」
「集中できるんだ……ここ、落ち着く……」
七不思議その4、泣き声の正体――受験生の絶望だった。
*
「てことは、残り三つの怪談も……?」
「全部、ただの“いい話”系かもしれない」
五番目は、校内放送室に現れる「謎のDJ」。
これは実際、元放送部の卒業生が機材を勝手に使って「夜のラジオ」をやっていた。
六番目は、鏡に映る謎の女。
それは保健室の先生がこっそり練習していたコスプレの試着姿だった(次の学園祭で初公開予定)。
そして最後の七番目――
「旧体育館の天井から、誰かが見下ろしてるらしい……!」
「ついにそれっぽいの来たな……」
ふたりが旧体育館を訪れた夜。天井の梁の上に、いた。
黒ずくめ、マント姿、完全に不審者。
「うわ、やばい!」
と思ったら、
「……よかった。今日も見学に来てくれた子がいる……!」
まさかの笑顔。そして、彼は手品を始めた。
「これ、代々語り継がれてきた“幻の奇術部”の演目なんです!」
「幻っていうか、完全に幽霊扱いだったよね……」
七不思議その7、天井からの視線の正体――観客を待ち続けた幻のマジシャン。
*
こうして湊大と珠希は、ひと夏で全ての“怪談”を暴いた。
結果――すべて、誰かのちょっとした「良いこと」だった。
「でもこれって、逆に貴重じゃない?」
「うん、“平和すぎる怪談”って、なんか癖になるかも……」
湊大は最後に、文庫本のページをめくった。
「“幽霊とは、会いたい誰かの気配である”って、この本に書いてあった」
「じゃあ、学校の七不思議は、みんな“誰かの思い”だったのかもね」
「……しみるな、そのセリフ」
しかしその夜、ふたりの部屋の窓を誰かがノックした。
トントントン……
「おい、まさか本物……!?」
開けてみると――
「お化けカレー、おいしくできたから、持ってきたぞー!」
理科準備室の人体模型が、エプロン姿で立っていた。
「やっぱり、今日もいい話だな……!」
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