見出し画像

【bon18:福島県_会津磐梯山と“登山盆踊り錯覚事件”】

「会津磐梯山は……宝の山よ!」
 勇ましく歌いながら、なぜか登山靴を履いた雄大が駆け出した。
「だからなんで山に向かってんの!? これ踊りの話だよ!?」
 美琴が後ろから叫ぶが、雄大は振り向きざまに答える。
「いや、俺は曲に導かれてる。“山”って言われたら、登らないとリスペクトにならないだろ!」
「その思考が全く理解できない!!」
 ここは福島県・会津若松市。
 夏祭りの広場では「会津磐梯山」が鳴り響き、観光客と地元民が輪になって踊っている――その輪から明確に“飛び出していく”勇者。
 一方、啓は祭りのパンフレットを読みながら、目を細めて言った。
「ふむ……“宝の山”というのは会津の人々の誇りそのもの……つまり地に足の着いた踊りの表現で……」
「つまり“山に登る”は完全に解釈違い!!」
 ジャニヤがツッコむ。
 その時、踊りの中央に一人の男――敬達が現れた。
 無言だが、全身から“情熱”があふれている。
 彼は、言葉を使わない。踊りだけで思いを伝えるタイプ
「……この人、踊りが会津弁になってる……」
 小百合がぽつりと言う。
 敬達の踊りは、静かだが力強い。
 ステップ一つ一つが、“この地で生きる覚悟”を語っていた。
 その横で、はづきが観察していた。
「この踊り……途中に、静と動の落差があるのよ。あえて外す部分があって、そこに……」
 その時、山の方角から雄大の声が!
「山頂、見えてきたーっ!!!」
「……うわ、まだ登ってたの!?」

「山頂、見えてきたーっ!!!」
 その声に会場全体が一瞬、止まった。
 だが、敬達は気にせず踊る。むしろ、その瞬間、踊りに一層の“強さ”が宿った。
「……なんか、彼が無視することで、逆に雄大が“小物”に見えてきた」
 拓朗のつぶやきに、一同が妙に納得する。
 そのとき――
 ドシャアッ!
 雄大が土煙を上げて滑り降りてきた
 背中に松の枝を刺しながら、開口一番。
「ちょっと……道中でサルに睨まれた……!」
「なにやってんの!? なんで毎回、自然と揉めてんの!?」
 ジャニヤが呆れきった顔をするなか、敬達はスッと雄大の前に立つ。
 そして――
 何も言わず、雄大の手を取り、踊りの輪へ。
「えっ……!?」
 突然、敬達に引き込まれた雄大。
 強引でもなく、優しすぎもせず、ただ“黙って一緒にいる”。
 その静かな力強さに、雄大も思わず黙った。
 やがて、輪のなかで踊りは佳境に入り――
 ♪ 会津磐梯山は 宝の山よ~
 ……踊りながら、雄大の表情が少しずつ変わっていく。
「なあ、これ……いいな……なんか、こう……登らなくても、“山に触れられる”感じっていうか……」
 と、感想を言いかけた瞬間、
「ちょっと黙って踊って!!」
 美琴の無慈悲な一喝が飛ぶ。
「でも……」と啓が静かに言った。
「……言葉では語れないって、たぶんこのことだ」
 誰もがうなずいた――その刹那、
 雄大が「また山に行こうとして」敬達に引き戻された
「いやだから行くなって言ってるのに!!」
 最終的に、踊り終わった輪の中央で、敬達と雄大ががっちりと握手。
 でも敬達は最後まで一言も発しなかった。けれどその目は、明らかにこう言っていた。
 ――「もう登るなよ」
(bon18:End)


いいなと思ったら応援しよう!

Goldness 楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。