見出し画像

第24話 小竹向原駅の駅神様

  有楽町線、副都心線、西武有楽町線が交わる小竹向原駅。地下深くに広がる巨大ホームは、まるで秘密基地のようで、乗り慣れない人はしょっちゅう迷子になる。
 この駅を守る駅神様は、探偵コートに虫眼鏡を持った「迷宮探索専門」のおじさんだ。自称「小竹の名探偵」。人の流れを推理するのが日課だが、実際は自分自身もしょっちゅう迷っている。
「ふむふむ……あちらの乗客は副都心線方面。だが挙動が不審……! いや単に改札を間違えただけか!」
 朝、通勤客が副都心線と有楽町線の案内に翻弄されていた。神様は慌てて虫眼鏡をかざす。
「有楽町線は左! 副都心線は右! ……いや逆か!? どっちや!?」
 オロオロする神様の横を、通勤客はスマホの路線図を見ながら勝手に正しい方向へ進んでいった。
「……推理失敗。依頼人に逃げられた名探偵の気分や」
 午前中、観光客が切符を片手に「池袋行き? 渋谷行き?」と迷っていた。神様はコートを翻し、指を差す。すると偶然、駅員のアナウンスが響く。「渋谷方面は右です」。観光客は歓声をあげて進み、神様は胸を張った。
「よし、名探偵の直感的中! ……たまたまやけどな!」
 昼時。ベビーカーを押す母親が、長いエスカレーターの前でため息をついていた。神様は虫眼鏡をクルリと回す。すると偶然、目の前のエレベーターが開き、母親は「ラッキー!」と笑顔で乗り込んだ。
「推理力じゃなくて運任せ。いや、これもまた探偵の才能や!」
 午後、学生が改札前で友人に電話していた。
「え、小竹向原? どこそれ?」
 神様は思わず吹き出した。
「駅にいながら駅の場所が分からんとは、ミステリーやな!」
 結局、学生は駅員に聞いてあっさり解決。神様はコートの襟を立てて「事件は現場で解決するんや」と一人で格好をつけた。
 夕方、帰宅ラッシュで人の波が押し寄せる。神様は慌てて虫眼鏡を振り回しながら叫んだ。
「この人波の動き……! 推理するに、半分は池袋行き、残りは渋谷方面! ……あれ、なんで逆に動いてんの!?」
 ドタバタしているうちに、偶然電車が同時に入線。人々は自然と分かれて流れ込み、混乱は収束した。神様は額の汗をぬぐいながら深呼吸。
「名探偵の推理? ちゃうちゃう、これは奇跡の同時入線トリックや!」
 夜。駅が静けさを取り戻すと、神様は梁に腰かけ、虫眼鏡を磨きながらぼやいた。
「小竹向原は迷路みたいな駅や。正直、ワシでも迷う。けどな……迷うからこそ、人は助け合うし、笑い話も生まれるんや」
 そして帽子を目深にかぶり、にやりと笑う。
「明日の事件簿は“出口どっちやねん大混乱”やろな。……ま、ワシの出番や!」
 その声は人に届かない。だが、駅を後にした人々の顔には、どこか探検を終えたような笑みが浮かんでいた。


いいなと思ったら応援しよう!

Goldness 楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。