【bon27:宮崎県_ひえつき節と“リズムが迷子の男”】
「ひとつ山越しゃ 村がある〜♪」
宮崎県椎葉村。
山あいに囲まれた静かな集落に、夕暮れの金色が降り注いでいた。
木造の舞台、薪の香り、静かな拍子木。
その空間に「ひえつき節」が響くとき、全員が自然と、心を揺らすように踊り出す。
……一人を除いて。
「えっと……今のはタメてから、パッ、パッ……いや、パパッ?」
そう、雄大である。
「雄大さん、止まるなら止まって! 動くなら動いて! “踊りバッファ”がすごいの!」
怒号の主は、美琴。
すでに七度目の踊り直しである。
「いやぁ……ひえつき節ってこう、“間”がさ、こう……なんかこう……しっくりこなくて」
「擬音しか出てない!」
そんな中、ふわりと舞うように現れたのが玲志。
他者を尊重する紳士で、ふわっと入ってふわっと存在感を残す男。
「……大丈夫です。踊りに正解があるわけじゃない。心のままに、静かに揺れれば」
「それができたら苦労してねえ!」
一方、ぴしっと正確な動きを見せるのは瑠莉花。
物事を整然と進めるプロである彼女は、カウントを的確に刻みながら言った。
「雄大さん、あなたの踊りは“ラグ”という概念で構成されています」
「俺、オンラインゲームじゃねえんだけど!?」
「……ええい、こうなったら!」
雄大は山中に響き渡るような声で叫び、
足元の下駄を高らかに打ち鳴らした。
ドン・パッ……ドン・パ……ドパッ……
そのリズムは、まるで“ひえつき節”ではなく“自宅の廊下でうっかりつまづいた音”だった。
「雄大さん、リズムじゃなくて“生活音”になってる!」
ツッコむ拓朗。周囲の踊り子たちは、「……誰?」と目で会話を交わしている。
するとそこに現れたのが祥稀。
常に新しい知識を取り入れようとする、ちょっと理屈っぽい探求者。
「雄大さん、ひえつき節はですね、実は“ひえを搗く(つく)作業”のタイミングに合わせていて――」
「待って待って、今その知識が頭に入りきらない!」
「入れようとして! リズムの理解に! 知識は武器です!」
「だとしたら俺、武器で自爆してる!」
――そのときだった。
ふいにひとりの老婆が、雄大の後ろから声をかけた。
「にいちゃん、あんた、ずれとるよ」
「はいぃ……知ってます……」
彼女は笑って、こう言った。
「でもよ、ずれてるけど、必死に笑おうとしてる顔、なんかええわぁ。踊りって、そういうのもええんよ」
その瞬間、踊りの輪の空気が変わった。
次の拍で、玲志が雄大の肩に手を置き、にっこり。
「揃わなくても、輪にいれば、それが踊りなんですよ」
……そこからの踊りは、ちょっと不揃いで、でも心が通っていた。
最後の「村の娘が さあ 出て来た〜♪」で、雄大がニコニコしながら一言。
「……俺も、村の息子代表ってことで……」
「勝手に肩書き作らないで!」
笑い声とともに、夜の山間に、拍子木の音がポン、と鳴った。
(bon27:End)
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