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『持ち上げ屋・田嶋の事件簿』

 世の中には「困ったときは持ち上げる」が信条の男がいる。
 その名は田嶋剛志、三十五歳。職業「持ち上げ屋」。

「重いものは全部、俺に任せてくれ!」

 そう言って彼は、冷蔵庫からクレーム処理、果ては部長の機嫌まで、ありとあらゆる“重たい案件”を物理と精神の両面で持ち上げ続けてきた。
 ただし、本職は町内のスポーツジムの受付バイトである。


 ある日、田嶋は「役所から直々に依頼が来た」と言って、町内掲示板の前で自慢げにポージングしていた。

「やっぱりな、俺レベルになると行政も黙っちゃいねぇ」

「田嶋さん、それただの“粗大ごみ持ち上げ補助員”の募集貼り紙ですよ……」

「バカヤロウ!“粗大ごみ”とはすなわち、重さの中の王様だ。つまり俺が“王の持ち手”になるって話だ!」

「いや、ただの作業員ですってば……」

 しかしこの男、異様に真面目なのが取り柄。
 結局、町役場に自ら志願し、「持ち上げ業務・臨時協力員」として任命された。


 最初の任務は、古びた公民館に放置されていた謎の金庫を搬出することだった。
 市職員も誰も開けたことがなく、重さだけは立派。200キロ超え。

「おっしゃ!久々に筋肉が泣いて喜ぶぜ!」

 田嶋は全身の筋繊維に感謝の念を送りながら、金庫をググッと持ち上げる――と、バランスを崩し、そのまま後ろにひっくり返った。

「グエッ……!ちょっと……助けて……!」

「田嶋さん!救急車呼びます!?でも待ってください、金庫が開いてる!!」

 衝撃で金庫がパカリと開いた。中から出てきたのは……昭和38年製の体重計と、大量の“カーブス無料体験券”。

「これ、昔のおばあちゃん筋トレクラブの備品ですね……」

「なんでそんなもんが厳重保管されてたんだよ……!」

「たぶん、誰も金庫の鍵が見つからなくて放置されたんでしょうね……」


 だが、田嶋の“持ち上げ伝説”は、ここから始まる。

 その後も彼は――

・図書館の地下に封印されていた「昭和歌謡全集全100巻(各巻辞書サイズ)」を一冊ずつ抱えて階段往復

・市長室に置かれた“謎の空気清浄機(実は壊れててただの箱)”を撤去して感謝され

・地域イベントで「巨大風船オブジェ」の支柱ごと持ち上げて浮かびかけ

 など、さまざまな“重み”と格闘してきた。


 そして町は気付く。「田嶋がいると物事が妙に片付く」と。

「問題児の会議?田嶋がいれば、なんか丸く収まるよ」
「予算の重み?田嶋にファイル渡しておこう」
「校長先生のスピーチが長い?田嶋が“腕組み静止”すると短くなる」

 つまり、物理的な“重量”だけでなく、空気の“重圧”や場の“沈黙”すら、田嶋は「持ち上げて処理」できるようになってしまったのだ。


 ある日、町にテレビ局がやってきた。

「本日紹介するのは、町の“持ち上げヒーロー”田嶋剛志さん!」

 インタビューで聞かれた。

「田嶋さん、あなたが最後に持ち上げたいものは、なんですか?」

 彼はカメラ目線でこう答えた。

「そうだな……“この日本の空気”かな」

 司会者は絶句し、カメラマンが泣いた。


 その翌日から、田嶋の肩書はこう変わった。

【肩書】:「空気感担当補助員(嘱託)」

 町の空気を、彼が今日も筋肉で支えている。
 さあ、次にあなたが感じた“重い空気”、それもきっと、どこかで田嶋がそっと持ち上げてくれている。


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