「部屋干し神がうるさい」
「この部屋には、部屋干し神が住んでおるぞ!!」
寝起きの頭に、男の大声はダイレクトに響いた。
完全に二日酔いの佐藤は、カーテンを開けようとした手を止め、天井を見上げる。
「……え? なに? 幻聴?」
「幻聴ではない! 本物の神だ! しかも、部屋干しをつかさどる、いわば洗濯界の守護神!」
天井の電気の真下に、もやもやした湯気のようなものが渦を巻いている。中心に、白い顔……いや、白い布をかぶった顔が、ぽっかり浮かんでいた。
「やだ……ついに疲れて見えるようになった……」
「ほう、疲れているのか。ならばなおのこと、洗濯物は干さねばなるまい。湿気は心も腐らせるぞ!」
「うるせぇ神だな……!」
佐藤はリビングのソファに座り込むと、昨日の夜に放り出したワイシャツを手に取った。見事なまでに、カレーがついている。黄色と茶色の斑模様。
部屋干し神は、それを見た瞬間、悲鳴を上げた。
「うわあああ! それは……洗濯機に入れる前に、下処理が必要なやつ!!」
「知ってるわ! でも今日、外雨でさ」
「知ってる! だからこその、部屋干し神!! 我は、この梅雨の時期限定で、人間界に降臨するのだ!」
「梅雨限定……バイト神かよ……」
「時給は湿度で支払われるのだ!!」
うるさい。やたらうるさい。
でも、なぜか言ってることは間違ってない。
佐藤は、しかたなく立ち上がり、カレーシャツをバケツに突っ込んだ。部屋干し神は、その様子を見て微笑んだ。神、微笑む。
「よくやった。次は、除湿機だ。ちゃんと風が回るように設置せよ」
「うちは扇風機しかないよ」
「ならば……回せ!! 最強で!!」
「強風で回す扇風機に神が叫ぶとか、もうシュールすぎるから」
扇風機がうなる。湿気が舞う。神が浮かぶ。
どう考えても平常運転じゃない我が家だ。
しかし、干して数時間。湿気が抜けた部屋は、思った以上に快適だった。神様が何かを呟いた気がしたが、すでに佐藤はソファで眠りかけていた。
「よくぞ……戦ったな……お主、やればできる……」
最後の声は、心地よい扇風機の音と混じって消えていった。
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