「受信、ただいま恋愛電波中」
毎朝6時30分、住宅街のど真ん中で目覚まし代わりに「ピーー」という異音が響く家がある。
その家の屋根の上には、堂々としたパラボラアンテナ——しかも三段構え、まるで宇宙ステーションのサブタワーだ。つけたのは、住人である五十嵐純一、独身46歳、職業:自称・地球外知的生命体との交信者。
「もう絶対、今朝は繋がる。今朝こそ、フォーマル星からの返信があるはずなんだ……!」
バスローブ姿の純一が、リビングに鎮座する操作盤(と名付けた中古の洗濯機のフタをくり抜いた箱)をじっと見つめる。
——しかし、交信どころか、隣家のWi-Fiまで阻害する精度の低さがご近所トラブルの火種となっており、純一は既に町内会で“電波テロリスト”とあだ名されていた。
そんな彼に、ある日、訪問者が現れた。インターホンのモニターに映るのは、眼鏡をかけたスーツ姿の女性。
「こんにちは。私、宇宙電波整理局の瀬川と申します」
純一は一瞬、夢と現実の境目が消えたかと思った。
「宇宙……電波……整理局!? ついに来たのか、地球の公式チャンネルから……!」
「いえ、町内会から苦情がありまして。これ以上アンテナを増設されると、近隣のテレビが全チャンネル砂嵐になると……」
「フォーマル星との恋路の妨げを!?」
「恋路?」
純一は静かに話し始めた。
「23年前、私は電波を通じて“彼女”と出会ったんです。彼女の名は……“フォーマ子”」
「……それって、ご自身がFMラジオで録音した深夜放送のDJの声では……?」
「違います!彼女は“ビッグバン・ラブ”の使者!私にだけ、毎週火曜の午前3時にだけ、愛のメッセージを送ってきたんだ!」
「その時間帯、文化放送でアニメソング特集してましたよ?」
「それは地球の電波に偽装されたフォーマル星の技術……!」
瀬川は目元を押さえた。真顔のままユーモアのブラックホールに突っ込む相手に、どこまでが本気でどこまでが宇宙なのか判別不能だ。
「とにかく、このままでは電波法違反です。特にこの『愛の反射板』と書かれた銀の傘、衛星放送と関係ないですよね?」
「あれは彼女に“投げキッス”を返す装置です!」
「もう完全にラブレターじゃないですかそれ!」
結局その場は、町内会から寄付された使い捨てパラボラの撤去、そして“愛の反射板”の撤収という条件で手打ちとなった。
だが翌日。
「緊急速報!五十嵐さんの家、また新型アンテナが設置されました!」
屋根には巨大なハート型の構造物が立ち上がっていた。
中心にはLED電光掲示板。そこに流れていた文字はこうだ。
《フォーマ子、君の信号は届いてるよ。次の火曜、また“ビッグバン・ラブ”しようね♡》
瀬川は怒鳴り込む準備をしながら、こっそりメモを取っていた。
「……この人、本当に受信してるかもしれない」
なぜか、その火曜の夜、文化放送は未明に20分間停波していた。
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