第68巻 高崎市:タカサキノカミの願い
群馬・高崎の静かな朝。空気が澄んで、妙義山のシルエットがくっきり浮かぶ。
「……おぉ、ええ朝やなあ」
と呟いたのは、登山歴三ヶ月の主婦・恵子である。だがその言葉を裏切るように、彼女はひとり、神社の石段を20kgのリュックで登っていた。
「膝、いてぇ……けど……神様に頼むしかない……!」
石段を登り切ると、小ぢんまりとした社殿と、横にぽつんと座る神様がいた。無口で堅実な神・タカサキノカミである。
――薪割りしてた。
社務所の隅で、朝から薪をひたすら割っていた。
「……あのっ、神様!」
「……」
(振り向く)
「……うむ」
(えっ?うむって言った?)
「その、お願いがあって……!」
「……具体的に」
静かすぎる神だが、意外と対応は早い。
恵子は、胸を張ってこう言った。
「わたし、登山を始めたんです!で、願いは……“山に強い足腰がほしい”です!」
タカサキノカミは無言でうなずき、斧を置くと社の奥へ。
出てきた彼の手には、巨大な登山靴と、スネまである謎のサポーター。
「……履け」
「えっ、履くの?これを?」
「……“履けばわかる”」
信じたくはないが、恵子は履いた。
数分後。
「……え、なにこの脚力。……わたし今、タイルの上でスクワット100回してた……?」
***
その後、願いが叶ったかどうかを確かめるため、恵子は妙義山に登った。
――2時間で登頂。いつも6時間コースだったのに。
「神様……ガチで山の民にしてくるとは……」
***
帰り道、彼女はまた神社に寄った。すると、タカサキノカミが薪を背負いながらぽつりと言った。
「……次は“荷重トレ”だ」
「もういいです」
タカサキノカミの願いの叶え方は、実用的すぎる。
でも、どんな願いにも真正面から応えてくれる、信頼の神だった。
ーー
静かな山に、無口な神様。
だけど、ちゃんと願いを聞いて、ちゃんと叶える。しかも地味にキツい。だけど、ありがたい。
――そういう神様が、いてもいい。
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