会議室の椅子がやたら喋る
この世に「職場の七不思議」があるとすれば、第5位くらいに“会議室の椅子問題”がランクインするだろう。
なぜかいつもギーギー鳴る。高さ調整が壊れてる。座った瞬間に「あ、これ外れ席だ」と確信させてくる。
しかし私の勤める会社の椅子は――もっと根本的におかしい。
喋るのだ。
【異変は朝の定例会から始まった】
月曜朝9時。
私は営業部定例の5分前に会議室に入った。偉い。
が、椅子に座ろうとした瞬間、背もたれの辺りから小さな声がした。
「おっ、また来たなお前」
……え?
「ちょっと座る前に聞きたいんだけどさ、お前、座るの重たくない?」
私はそっと、隣の席に移動した。
もしかして疲れてる? 夢?
でも隣の椅子もボソッと言った。
「俺の兄貴、ああやって人選ぶタイプだからさ。気にしないで座っていいよ。俺、ストレス少ない人が好きだし。」
なんだこの椅子界のマッチング制。
【上司の椅子は“悟り系”】
定例が始まり、課長が入ってくる。
座る瞬間、椅子がふわっとこう言った。
「……よく帰ってきましたね。お疲れさまでした」
なんか重い! この椅子、いろいろ背負ってる!!
課長はノーリアクションだが、私は気になって仕方がない。
もしかしてこれ、自分にしか聞こえてない?
【無機物たちの人間観察】
その日の午後、私は意を決して椅子に話しかけた。
「……なあ、いつから喋ってるの?」
「気づいたのか。」
「いつから喋れるの?」
「オカルト的に言うなら、お前が月曜の昼に絶望した瞬間からだな。負のオーラ、よく吸ってた」
「そんなスイッチあるの!?」
「ていうか、お前、週4くらいでため息ついてるよな」
お前って言うな。
【プリンターと雑談してるの見られる地獄】
昼休み。私は誰もいないコピー室で、試しにプリンターにも話しかけてみた。
「おーい、プリンター。君も喋る?」
「また紙詰まりのせいにされるのか……こっちは悪くないんだ、紙が悪いんだ……」
トラウマかよ!!
しかしその時、後ろから声が。
「……あの、コピー機と会話してるんですか?」
新入社員・山口くんが、引きつった笑顔で立っていた。
彼の中で私の評価は今、完全に“異常者”に分類された。
【真実:なぜ椅子が喋るのか】
週末、私はついに社内の“最も古い椅子”に尋ねた。
「なあ、どうして君たちは喋るんだ?」
古椅子は、ミシミシ音を立てながらこう答えた。
「人間が、椅子にばかり愚痴ってくるからさ……そのうち、意思が芽生えたんだよ」
「……え、まさか」
「そう。お前らの“聞いてよ~”に、俺らずっと付き合ってんのよ。」
「でも会議室の椅子って、基本無言で座られるだけじゃない?」
「そっちはストレスで自壊してる。寿命1年。心壊してんだよ」
会議椅子、しんどすぎる世界だった。
【そして私は“椅子の味方”になった】
それから私は、こっそり椅子に話しかけたり、座る前に「よろしく」と声をかけるようになった。
たぶん、社内での私の評判は下がっている。
でも、今日もあの椅子は言ってくれた。
「お前、今週頑張ったな。明日は、柔らかく包むわ」
……ありがとう、椅子。
人間は、何かに座っている時間が長い。
だから、椅子を敵に回すのは、人生そのものを敵に回すようなものだ。
【まとめ:喋ってるのは、たぶん自分の良心】
椅子の声が聞こえるのは、もしかしたら本当に幻聴なのかもしれない。
ただ、そうだとしても私はこう思う。
「もしもこの椅子が私を見てるなら、せめて“頑張ってるな”と思われたい」
誰かが見てると思えば、人は少しだけマシになる。
それが椅子でも、たぶん同じ。
今日も私は、座る前に一言つぶやく。
「よろしく、今日の俺を支えてくれ」
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