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祈りの達人、バイト募集中

「拝むだけで時給1500円!交通費支給!」

 その求人広告を見て、俺は目を疑った。
 場所は、駅前の古びた雑居ビルの5階。
 屋号は【祈リウム株式会社】。

「なんだここ……宗教?詐欺?ドッキリ?」

 不安になりながらも、俺は足を運んだ。
 だって、無職で、金もなくて、しかも何も信じてない俺でも、拝めば稼げるって言うんだから。

 エレベーターを降りると、目の前にいたのは、白いローブ姿の初老の男。
「お初にお目にかかります。社長の真念です」

 名前からしてガチっぽい。

「えっと、祈ればいいんですか……?」
「はい。毎日8時間、全力で祈っていただきます」
「全力で?」
「そう、全力で」

 俺はその日から、祈りのプロとしての研修を受け始めた。

 1日目:正座。ひたすら正座。膝が死ぬ。

 2日目:念仏読み上げ訓練。知らない言語が多すぎて噛み倒す。

 3日目:祈りポーズ選定。両手合わせるだけで15パターンある。

 4日目:祈りのリズム。テンポが違うと“雑念ビート”になるらしい。

 5日目:他人の祈りをジャッジ。あれ、これ祈りの大会か?

 ……気がつけば、俺は本気で祈る筋肉がついていた。

「よし、今日から現場に出てもらう」

 そう言われて連れて行かれたのは、なんと大手企業の会議室。
「こちら、当社の“営業祈祷部”です」
「えっ、会社公認!?」

 どうやらこの会社、プレゼン前に“運気祈願”として外注しているらしい。
 我々祈リウムは、プレゼンの後ろで全員正座し、静かに手を合わせる。
 パワポが切り替わるたびに、祈る。
 質疑応答になると、息を止めて祈る。

 ……効果は、意外とある。

 この日、営業部は3年ぶりに大口契約を勝ち取った。
 部長が号泣しながら言った。

「やっぱ祈りだよ!うちに足りなかったのは!戦略でも根回しでもない、魂の後押しだったんだ!」

 その夜、俺の祈り仲間・トミーがささやいた。

「これな、実は“見られる祈り”が重要らしい。プレッシャーを増幅するから、発表者の脳が超覚醒状態になる」

 科学かオカルトか分からんが、とにかく祈ればウケる。
 それが、我ら“ビジネス祈祷士”の仕事だった。

 ある日、社長の真念が言った。

「次は、お前に“特殊任務”をやってもらいたい」

「特殊……?」

「個人の“願掛け”案件だ。依頼主は、結婚を願う男性だ」

「おおっ、恋愛成就系ですね!」
「ただし、ちょっとクセがある」

 実際に会ってみると、依頼主・佐藤は言った。

「僕、3年片思いしてるんです。相手は同じバイト先の女性。毎朝、“あいさつの声が0.5トーン高い”ってことに気づいて、これは脈アリだって……」

 おい、それは願望の祈りだ。

「とにかく、今度の飲み会のときに、彼女が僕の隣に座ってくれるよう祈ってください!」
「ちっさ!祈り、ちっさ!」
「いいから!僕の人生かかってるんです!」

 俺は、その日念入りに祈った。

 ・飲み会当日の朝:玄関の方角に向かって正座
 ・昼:うどんをすすりながら無言祈願
 ・夕:居酒屋の前で“気配祈祷”
 ・夜:席が決まる瞬間、窓の外からガチ拝み

 結果。

 彼女は、トイレの近くの席に座り、
 佐藤は、入口の自販機横に座った。

「……効果、ゼロですやん」
「いえ、逆です」

 俺は言った。

「それ、運命の“試練”です」

「試練……?」
「今、あなたに必要なのは祈りじゃない。動きです。せめて“取り皿取ってあげる”とか、やれよ」

 その後、佐藤は勇気を出して話しかけ、連絡先を交換した。
 やったね。

 彼は言った。

「祈りって、行動を生むための“気持ちのストレッチ”なんですね……」

 俺、いいこと言った気がする。

 現在、祈リウム株式会社は大忙し。

 ・就活生のための「合格祈祷コース」
 ・アイドルの追っかけ用「現場入り待ち祈願プラン」
 ・猫の健康長寿祈祷(※猫に効果あるかは不明)

 俺は今も、正座しながらこう思う。

「信じてなくても、祈れる。祈れば、笑える。笑ったら、なんかうまくいく」

 たぶん、祈りってそういうもんだ。


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