私の彼は人工衛星(リモート浮気中)
付き合って三年。プロポーズも済ませた。ウェディングドレスのパンフも三冊目に突入し、母は勝手に式場を見学してきたらしい。
そんな私の彼氏、拓馬は現在、地球の軌道上を周回している。
職業:人工衛星(中身は人間)。
ええ、ちょっとおかしいって思いました?でも本人がそう言うんだからしょうがない。初めてそう名乗られたときも、
「はいはい、宇宙開発企業勤務ね〜すごい〜」
と流したら、
「いや、俺自身が人工衛星なんだ。JAXAの脳拡張実験、試験対象第一号だよ?」
と、冷やし中華始めましたくらいのテンションで言われた。
実際、ある日から彼は透明になり、次の日にはGPSでしか存在を確認できなくなった。そしていまや、Googleマップの上を秒速7.66kmで移動している。
恋人が宇宙から遠隔通話してくると、人はどんな反応をすると思う?
まあ、最初は泣いたよね。
「距離、無理〜!!」って。
でも拓馬は、毎日軌道から私の部屋の上を通過するたびに、音声メッセージを送ってくれる。ちょうど19時15分、風呂の給湯が終わる頃。
《今日も地球、青かったぞ。君の町の雲、わりと羊》
とか
《マックの駐車場でさっき君が財布落としたぞ。拾った高校生、えらい》
とか。
彼はもう、気象衛星みたいな存在だ。正確な天気、的確な忘れ物警報、たまに送られてくる謎の「宇宙あるある川柳」。
《流れ星 見たのに願いを 言えぬ速度》
なんで五・七・五で送ってくるんだあの人。
そんな遠距離衛星生活にも慣れてきたころ。事件は起きた。
私のスマホに一通の通知が届いた。
【警告:同軌道上に“別の人工衛星”接近中】
まさか、浮気?
焦った私はすぐさま拓馬と交信。
「ちょっと!“ひとつの軌道に恋人はひとり”って言ってたじゃん!」
《違うんだ!向こうから近づいてきただけで!俺は軌道を変えようと……うわっ、やめ……あ、やば、頭ぶつ……》
《……通信断。再接続まで約92分》
未読スルーならぬ、軌道スルー。既読ですらない。
私は人生で初めて、嫉妬で国際宇宙ステーションに八つ当たりしそうになった。
結局、92分後。
《すまん。あれはNASAの新型気象衛星だった。何か“宇宙で生きてるって感じ~!”とか言われて、写真撮られた》
「もう。あなた、カメラ写りいいから……って問題そこじゃないからね?」
《君だけを観測してるのは本当だよ。軌道上でも君のことを考えてる》
その一言に、思わず胸がぎゅっとなった。
……そう、私の彼は世界で一番遠くて近い男なのだ。
ちなみに先週、拓馬は地球の裏側でカップルの喧嘩をリアルタイムで目撃し、「地球の恋も大変だ」とメールしてきた。
お前の恋が一番大変だよ。
今朝も彼は、朝の情報番組より早く
《今日の洗濯は、乾くぞ》
と送ってきた。
私は洗濯機を回しながら思う。
「衛星って、恋人より便利だけど、便利な恋人って……どうなんだろうなぁ……」
って。
まぁ、次に地球に帰ってきたときには、またちゃんと人間の形でプロポーズしてくれますように。
できれば、手とか、ちゃんと触れる姿で。
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