【bon19:青森県_津軽じょんから節と“ノーミスで踊った者など存在しない説”】
「……あの……今、何拍子だったの?」
静まり返った広場に、はづきの困惑した声が響く。
「わからん。途中から何かの儀式みたいになってた」
拓朗が頭を抱えて言う。
ここは青森県・黒石市。今宵の盆踊り会場では、まさに今、「黒石よされ節」がフィナーレに差しかかっていた――はずだった。
その列の最奥で、“無言でずっと飛んでいた男”、雄大。
「今の俺、完全に風だったわ」
「いや、浮いてただけだよ!?」
美琴が本日12回目の正論を叩きつけた。
一方、踊りの中央には、鋭い視線の少年――優亜が立っていた。
彼は言う。
「この踊りは“プレッシャー”がある。だって、“間違えたら即バレ”だから」
優亜は、一見クールだが追い込まれると燃えるタイプ。
だからこそ、あえて最前列に立ち、全力で挑んでいた。
「じょんから節の変化が多すぎて、さっき“逆回転しそうになった”んだけど……」
小百合が半泣きで報告する。
そこに、踊り講師の少女――優香梨が登場。
一見普通の子だが、この地では“踊りの申し子”と称される天才である。
「皆さん、怖がらなくて大丈夫ですよ~♪ 初心者の失敗は、リズムに飲まれれば見えませんから~♪」
「いや、プロが言うと怖いわそのフォロー!!」
そして、津軽三味線が鳴る。
――ジャン、ジャンジャカジャカジャカジャカジャカッ!!!
「早い! 音が! 多い!」
美琴の叫びが地面に吸い込まれていく。
完全に異次元。音の速さ、細かさ、変則っぷり。
しかも踊りはリズムに合わせて細かくターン、跳ね、腰を落とす……あまりにも情報量が多すぎる。
「これさ……マニュアルある?」
啓が珍しく自発的に質問した。が、優香梨は微笑んで一言。
「“体が覚えれば、それでよし”ですっ☆」
「何そのエンジョイ勢全滅ルール……!」
一同の視線が凍る。
優香梨はくるりとステップを踏みながら言う。
「津軽は、気合いと気象条件と根性で成り立ってるの。だからリズムもね、“空気”で取るのよ♪」
「音じゃないの!?」
「音も大事だけど、風とか匂いとかも大事かな~♪」
「盆踊りに“匂い”の概念あるの!?」
だが、そんな混乱のなか、優亜が前列で本気モードになっていた。
「……俺、こういうギリギリの緊張感、逆に好きなんだよな」
汗をにじませながら、リズムに喰らいついていく。
右、左、ターン、ターン、踏み、跳ね、しゃがみ、スピン。
そのとき――
「……あっ、今の、合ってた……!」
小百合が、優亜の一瞬の動きを見てそうつぶやいた。
彼は一瞬、完璧なリズムで舞った。観客がざわつく。
でも次の瞬間、
「うわ、滑った!!」
盛大にコケた。
「惜しいーっ!! でもそこが津軽じょんからの罠ーっ!!!」
司会者のおじさんが叫ぶ。
観客から笑いと拍手。
……そして、演奏は続く。
「終わんないの!? これ何分曲!?」
はづきが時計を見ながら慌てる。
その隣では、雄大がまた浮いていた。
「俺、音と一体化した……。もうこれは音の精霊、いや、“じょんからの申し子”……」
そこに優香梨が花笠を叩きつけて言う。
「黙って音取れッ!」
「すいませんでしたァッ!」
(bon19:End)
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