第23話「定理と愛は似ている?」
昼休みの教室——
数学の授業が終わったばかりの午後、
女子生徒の一人・西野が、ぽつりとつぶやいた。
「ねえ、アルキメデス先生。数学って……恋愛と似てると思いません?」
—
一瞬、教室がしん……と静まりかえった。
—
「……なにゆってんの西野」
「いやでもさ、好きになる理由ってわかんないけど、
そこに確かに“何か”あるじゃん? それって“美しい関係性”って意味では……」
—
アルキメデスは、腕を組んで考え込み、
やがて真剣な顔でこう返した。
—
「いや違う。定理は永遠だが、愛は……変わる」
—
「うわあ……名言だけど……なんか刺さる……」
—
西野は笑いながら「ふられたわ〜」とつぶやいた。
だが、その言葉の余韻は、教室中に妙な静けさを残した。
—
放課後——
アルキメデスは、校舎裏のベンチで、一人ノートを開き、こう書いていた。
「愛とは、“証明”できぬ関係性である」
「定理とは、無数の試行錯誤の末に辿り着く“唯一解”である
愛は、“変数”が多すぎて、定義できぬがゆえに美しい
だが、だからこそ——わしはそれを知りたいと思ってしまう」
—
そんなノートを眺めていたところに、松井がやってきた。
「なに書いてんの? また“恋愛と数学の違い”?」
「うむ……西野という娘の問いが、頭から離れぬ」
—
「でもさ、愛ってさ、数式で表せたらつまらなくない?
“会った回数×LINEの返信速度÷思い出の密度”とかで測れるなら、もう恋じゃなくない?」
—
アルキメデスはその言葉にしばし沈黙し、
やがてゆっくりとうなずいた。
「なるほど……“測れぬからこそ、求めたくなる”のか……」
—
その夜、彼はまたノートを開き、こう綴った。
《愛の定理(仮)》
・A+Bがともに存在することで生まれる感情E
・だが、EはA単独では定義できず、Bの影響で常に変動
・しかもBの定義は観測者によって変わる
・結論:定理ではなく、“動的仮説”として扱うべし
—
「……数式にしてみたけど、やっぱりわからぬ」
—
そうぼやきつつも、ページの最後に一言だけ残した。
「愛とは、定理よりも、わかりたいと思わせる何か」
(第23話 完)
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