【bon33:栃木県_日光和楽踊りと“直感型の暴走姫”
「ひとたび舞えば、和楽の風――」
日光東照宮の境内、参道の片隅で、しずしずと始まった日光和楽踊り。
衣装は淡く、音色は雅びやか。観光客も思わず足を止め、スマホを構えていた。
……その中央に、変な緊張を滲ませて立つ女が一人。
「……きた、来てる、これ絶対流れ来てる!」
舞台でもないのにテンション最高潮なのは、佳世子。
「私の血が……太鼓と……共鳴してる……!」
「共鳴しないで! それ鼓膜が危ないやつだから!」
横で冷静に突っ込むのは冬羽。
物静かな実力派。ツッコミは最小限だが、常に的確。
「だから勝手に“私こそ日光の巫女”みたいなポーズとらないで」
「だって見て! この木漏れ日! この舞台感! これはもう、踊れっていう天の導きでしょ!」
「石畳にそんな導きは出てません!」
さらに登場するのが、太栄。
感情を抑えつつ冷静に行動する彼は、眼鏡を直しながら言う。
「佳世子、許可を取ってない“ソロ演舞”は観光保護条例違反だ。最悪、巫女さんに止められるぞ」
「……巫女さんと舞バトルしたらニュースになるかな!?」
「そういうところが毎回問題なんだよ!」
境内に響く、優美な和太鼓の音。
だがその音に合わせて、なぜか中央で舞い始めたのは――佳世子。
しかも、完全オリジナル振付で。
「光と影が私を包むっ……これが! 日光ッ!!」
観光客A「……あれって演出?」
観光客B「いや、なんか……見ちゃうね」
通りすがりの巫女が、ちょっと引き気味に「おやめください」と言いかけるが、
佳世子は既に“降りてる”状態。
そこに、完全に止めに入ったのが冬晴子。
グループ行動が得意で、こういう“暴走姫”の取り扱いにも慣れている。
「はい、佳世子さん、そこまで! 今すぐ“舞バトル編”から日常編に戻って!」
「えっ、今いいとこだったのに!?」
「あなたにとっての“いいとこ”は、大体、公共的にはアウトなの!」
一方、太栄が観光案内所に行って、妙な申請書を持って戻ってきた。
「これ、“予告なしの踊り出し届”って書いてあるんだけど、なんで存在してるんだこの書類……」
佳世子がぴたっと止まり、目を輝かせて言った。
「書けばいいのね!? 私、この場を正式なステージにしてみせる!」
「逆に火をつけたーっ!」
……だがその瞬間、通り雨のように、和楽踊りの音が消えた。
観光協会のスタッフがマイクでアナウンスする。
「本日これより、舞台は“伝統保存舞”に入ります。静粛にご鑑賞ください」
「……えっ、私のステージ、幻……!?」
「元から幻だったよ!」
佳世子の舞台は、“雨のように止んだ拍子木”とともに幕を閉じた。
けれど最後、通りがかった子どもがつぶやいた。
「おねえさんの踊り、なんか変だったけど、おもしろかった!」
「……それでいいのよ!」
「褒めてないからね!?」
(bon33:End)
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